第5章 男が悪魔になることを望む女
「今日は本当にありがとうございました!」
なんとか兵舎にまで帰ってきたリヴァイとアリアは玄関ホールで肩に積もった雪を払っていた。
やっと普通に歩ける場所に来られて安堵しているのか、アリアの表情は晴れ晴れとしている。
「今度の非番の日にでもキャラメル食べましょうね! 今日わたしが買った紅茶と絶対合いますから」
「あぁ。……楽しみにしておく」
リヴァイが答えると、アリアははにかむように笑った。
「それじゃあ失礼します」
ぺこりと頭を下げ、アリアはリヴァイに背を向ける。
ゆらゆらと揺れる金髪が角を曲がり、見えなくなった。
その後ろ姿を見送っていたリヴァイは不意に視線がうなじに刺さるのを感じた。すぐさま振り返る。
「……リヴァイ」
そこにはハンジとモブリットが立っていた。
大量の書類をモブリットと手分けして運んでいる途中なのだろう。猛烈に嫌な予感がリヴァイとモブリットを同時に襲った。
「リヴァイさん! 早く逃げてください!」
モブリットが叫ぶ。彼の両手もまた塞がっていて、今ここにハンジを止められる人間はいない。
「リヴァイ!! じっっっっくり話を聞かせてもらうよ!!」
リヴァイの耳の奥で戦いのゴングが鳴り響いた。
リヴァイが駆け出すのとハンジが持っていた書類を放り投げるのはほぼ同時だった。
数時間後、長期に渡る鬼ごっこで疲労困憊したハンジと、そのしつこさに根負けしたリヴァイがいたとかいなかったとか。
「で? アリアのことどう思ってるの?」
「……黙れ」