第5章 男が悪魔になることを望む女
「本当にありがとうございます」
アリアははにかむように笑った。
思わずその笑顔を見つめる。その視線に気づいたアリアが不思議そうに首を傾げた。
「わたしの顔になにかついてますか?」
「……いや、なんでもない」
慌てて目を逸らす。
さっきからどうにも自分の感情がわからなくなっていた。
アリアの姿を目で追ってしまう。紅茶を見に来たはずなのに、なぜかアリアを見に来たようなことになっている気がする。なぜだ。
当のアリアはどの紅茶にしようかな、と考えていた。
動くごとに揺れる金髪。真剣に考える横顔。よく動く青い瞳。
ついこの前まで当たり前の光景だったはずのものが特別なものに見えてしまう。いったいこの数時間で自分になにがあったのだろうか。
紅茶とはまったく別のことを考えながら適当に茶葉を手にした。
金色のパッケージだ。なんとなく鼻を寄せると、甘いにおいがふわりと漂う。
「なにかいい紅茶見つかりましたか?」
自分用のものも買うのか、いくつか紅茶を手にしたアリアがリヴァイに近づいた。
「甘いにおいがする」
「わ、ほんとだ。キャラメル……ですかね」
「キャラメル?」
「はい。甘いお菓子ですよ。たしかこの前エルヴィン分隊長からお裾分けだってもらったんですけど、とっても美味しかったです!」
「ほう」
キャラメル。お菓子。それをアリアが持っている。
それを食べに行くという口実で、またアリアと話はできないだろうか。
一瞬頭をよぎった願望にリヴァイは思わず心の中で自分自身にゾッとした。
「よければリヴァイさんも食べてみます? まだ何個かありますし」
なんてことないようにアリアが提案する。
気づくとリヴァイは首を縦に振っていた。
リヴァイとて15のガキではない。突如出現したこの感情の名前くらい薄々勘づいていた。だがそれを認めてしまえばなにか恐ろしいことが起こるような気がして仕方なかったのである。
結局リヴァイがこの感情に名をつけ、その想いをアリアに告げるまで数年かかるのだが、今のリヴァイは知る由もない。