第5章 男が悪魔になることを望む女
「そしたらやっぱりリヴァイさんはとても優しい人でした!」
優しい人。
言われ慣れない言葉にリヴァイは渋い顔をした。アリアから見ればいつもの無愛想な顔とそう変わりはなかったのだが。
「俺は……」
優しくなどない。
アリアが思うようないい人ではない。
そう言ってしまいたかったのに、なぜか口は動かなかった。
だが、リヴァイの言わんとしていることが伝わったのか、アリアは微笑みを少し収めた。
「わたしはリヴァイさんがどんな人生を歩んできたのか知りません。地下街がどれだけ過酷な世界なのかも知りません。リヴァイさんがいったい今までどんなふうに暮らしてきたのかも、知りません。でも」
街のほうから人々のざわめきが聞こえてくる。
はらはらと雪が空から舞い落ちる。
「わたしの知るリヴァイさんはとても優しい」
気づくとリヴァイは立ち止まっていた。その数歩先でアリアも立ち止まる。どうしましたか? と眉を下げて。
「……いや、なんでもない」
ただその一言が。彼女の口から発せられたその一言が。
「雪が降ってきたな」
「ん! 本当だ! 積もったらいいですね」
嬉しかった。
冷えた体がぽかぽかと温もっていく。首元がじんわりと熱を持った。
リヴァイは足を動かした。アリアの隣に並ぶ。はぁ、と息を吹きかけて彼女は自分の手を温める。
その手を取り、この熱を分け与えてやりたいと。妙に浮足だった頭で考えた。
「もうすぐ着きますよ、リヴァイさん!」
「あぁ」
その日、男は生まれて初めて恋をした。