第5章 男が悪魔になることを望む女
この前読んだ本の話。弟の話。ナスヴェッターの話。怪我のリハビリの話。
アリアはリヴァイの隣でとてもよく口を動かした。リヴァイはそれに頷き、たまに聞き返す。
アリアは話すことが苦ではないのか、それはそれは楽しそうだ。
世間話が苦手なリヴァイにとってそれはとてもありがたかった。
半歩前を歩くアリアの大きな身振り手振りによって、彼女の髪が右に左にと揺れる。それをなんとなく目で追いながら、アリアが髪を下ろしているのも初めて見るな、と思う。
それと同時によく物怖じせずに話せるな、とも思う。
リヴァイが調査兵団に入団してもうすぐ1年だが、いまだに滅多なことがない限り話しかけられることはない。
エルヴェンやハンジなどは除いて、だ。
リヴァイの顔つきが怖いから、というのも話しかけられない理由の一つだろう。
「アリア」
思えばアリアが初めて話しかけてきたのは──馬を間違えていたときだったか。
名前を呼ぶと、アリアは急いで口を閉じ、振り返った。
「ご、ごめんなさい。わたし喋りすぎですよね」
「いや、それは構わねぇが……」
それはただの好奇心だった。知りたいという欲からだった。
気づくとリヴァイは聞いていた。
「俺を怖いと思ったことは、あるのか?」
アリアは一瞬不思議そうな顔をした後、ニコッと笑った。
「初めて話しかけるときはとっても緊張しましたし、怖かったですよ」
面と向かって怖いと言われるとなぜか傷つく。
でも、とアリアは口を動かした。
「リヴァイさん、グリュックの名前を聞いたあと言ったんです。いい名前をもらったなって」
そういえばそんなことを言ったような気もする。
よく覚えているな。
「そのときちょっと笑ってて、それが意外で、それに動物に優しくできる人に悪い人はいませんから! それがあったから、リヴァイさんのこと怖いとは思わなくなったんです」