第5章 男が悪魔になることを望む女
はぁ。
白い息を吐き出し、リヴァイはコートのポケットに突っ込んだ手を握りしめた。
地上に来てからの初めての冬。
地下街にいたときも寒かったが、地上の冬はそれ以上に寒い。
「リヴァイさん!」
兵舎の出入り口の門に背を預けていたリヴァイは聞こえてきた声に振り返る。
もこもこのマフラーを巻いたアリアが駆け足で近づいてきた。初めて見る私服にリヴァイは内心どう反応するべきか悩む。
「すみません、お待たせして」
「いや、別に待っちゃいねぇ」
リヴァイの返事にアリアはぱちくりと目を瞬かせた。その後にふにゃりと口元を緩める。
思わずリヴァイは寒さで赤くなった鼻をすすった。
どれくらい前から待つべきかわからず、集合時間の15分前から来ていたことは“別に待っちゃいねぇ”に入るのだろうか。
「行くぞ」
「はい!」
リヴァイとアリアは並んで歩き出した。
目指すは麓の紅茶屋だ。
「今夜は雪が降りそうですね」
坂を下りながら、アリアがちらりと空を見上げた。つられてリヴァイも空を見ると、たしかに雲はどんよりと暗く重たかった。
「雪?」
地下街で生まれ育ったリヴァイは雪を見たことがなかった。本や人の話で聞いたことがあっても、空から白いふわふわのものが降ってくるなど信じられない。
聞き返したリヴァイにアリアは頷いた。
「理屈はわからないんですけど、冬のとっても寒い日には雪が降るんです。雨とは違って地面に積もるんですよ!」
アリアは雪が好きなのか、ニコニコと楽しそうに話を続ける。
「雪が降るとすごく静かになるんです。たぶん雪が周りの音まで吸いとっちゃうんだと思います。ちょっと寂しいけど、でも美しいですよ」
相槌を打ち、もう一度空を見上げる。
寒いのはそれほど好きではないが、見てみたい。
アリアがあまりにも楽しそうに語るものだから、興味が湧いた。