第4章 自分の大切な人を心配させないように
「そ、そんな、こと」
アリアが息を吸った。
ベッドから降り、ナスヴェッターの前に立つ。その肩に手を置き、アリアは叫んだ。
「そんなこと、言わないでください!!」
突然のアリアの大声と肩を揺すられ、ナスヴェッターは「ひっ!」と情けない声を出した。驚きで涙が引っ込み、困惑そのものの表情でアリアを見上げた。
「ナスヴェッターさんはあのときわたしを助けてくれました!」
前回の壁外調査。オリヴィアが食われ、動けないアリアを口に放り込もうとした巨人をナスヴェッターが殺してくれた。あのままもしナスヴェッターが来なければ、確実にアリアは死んでいた。
「ナスヴェッターさんがいたから、わたしは今ここにいるんです! だから、だから……死んでおけばよかったなんて……言わないで」
アリアは膝から崩れ落ちた。俯き、絞り出すような声で言う。
ナスヴェッターは呆然としたまま、アリアの頭を見つめた。
「……僕がいなかったら、きっと君はベインとオトギに殴られることはなかったんだよ」
「あなたがいなかったら、殴られるより前に死んでいます」
「……きみを、たすけたのも、エルヴィン分隊長の指示、だったんだ」
「それでも、命令だったとしても、あなたはわたしを助けてくれました」
「僕は、ぼくは……なにも、できない、臆病者だ」
ゆっくりとアリアは顔を上げた。
限りない優しさが込められたアリアの瞳の中に、ナスヴェッターが映る。
「ナスヴェッターさんは臆病者なんかじゃありません。わたしが保証します」
どうして。
「どうして、」
ナスヴェッターは目を閉じ、アリアの肩口に顔を埋めた。
「そんなに優しいんだよ……」
もし、神様なんてものがいるとしたら、あぁ、願おう。
どうか、どうか。
彼女に辛い思いをさせないでください。
だれよりも、なによりも優しい彼女に、心からの幸せが降り注ぎますように。