第4章 自分の大切な人を心配させないように
「代わりにその兵士は……断末魔を残して逝った。今でも耳にこびりついて離れない。そのとき初めて、僕は恐怖を感じた。死に直面したときの恐怖を、僕は知った」
恐怖に支配された体は動くことを許さなかった。
動けば死ぬ。動かなくても死ぬ。世にも恐ろしい断末魔がまだ響いていた。
「いい人は、みんな死んでいく。傷ついていく……」
ナスヴェッターの瞳から涙が一筋こぼれた。
アリアはなにかを思い出しているのか、悲しそうに顔を歪めていた。
「それからは毎日考えた。どうして、僕が生き残ってしまったんだろうって」
ボックは死んだ。ランゲも右手と右足を失い、兵士を辞めた。
2人とも勇敢な兵士だった。
ボックは最期まで、巨人を殺すことだけを考えていた。生きることを諦めなかった。ブレードを手放さなかった。
ランゲも、恐怖に竦み動けないナスヴェッターやほかの兵士を守るために戦った。視界も悪い中、戦い続けた。
「みんな、戦った。なのに、なにもしなかった僕が生き残ってしまった! 調子に乗って油断して、ただバカみたいに座り込んだ僕は生き残って、勇敢に戦った人が死んで、怪我をした!」
ナスヴェッターは涙を流し、全身を震わせ、しゃがれた声で叫んだ。
「頭も良くない、体力もない、ただ飛び回ることしか能のない僕が……! 生き残って、しまったんだ」
流れる涙をそのままに、ナスヴェッターはしゃくり上げた。
今、きっとひどい顔をしているに違いない、でも、言葉は止まらなかった。
「そして、僕は、君を巻き込んでしまった……。優しい君を、なんにも悪くない君を、傷つけてしまった」
ナスヴェッターは床に手をつき、深く、深く頭を下げた。
「すまない」
こんなことになるなら──
「壁外調査で、死んでおけば、よかった……」