第4章 自分の大切な人を心配させないように
リヴァイの目が見開かれ、やがて静かに緩んだ。
(笑っ……た、のかな!?)
笑顔のようなそうでないような。しかし優しげな表情を浮かべた彼は一つ頷き、医務室のドアを開けた。
「……なにしてる」
ボソ、とリヴァイがドアの向こうにいたらしい人物に言った。
ここからではリヴァイの背中しか見えない。頑張って首を伸ばすと、リヴァイの肩越しにモサモサ頭が見えた。
「ナスヴェッターさんですか?」
名前を呼べば、モサモサ頭が揺れた。
「さっさと行け」
リヴァイが動き、ナスヴェッターの姿がようやく見える。
「で、でも」
なにやらモゴモゴするナスヴェッターの背中をリヴァイは押した。
ひょろっと長い手足を泳がし、ナスヴェッターは医務室に足を踏み入れた。リヴァイはため息ともつかぬ息を吐き出し、ドアを閉めた。
「ナスヴェッターさん?」
出入り口のそばから動かず、俯くナスヴェッターに声をかける。
「怪我はないとお聞きしたのですが……大丈夫でしたか?」
アリアの心配するような声音にナスヴェッターの肩が揺れた。
まるで怒られることを覚悟しているような子どものように、背を丸め、拳を握りしめている。
「どこか具合でも悪いんですか?」
俯いてしまっては表情が見えない。
ナスヴェッターの気持ちをわかりたくて、アリアが続けて言う。
「…………いいや、怪我は、ない。体調も、悪くない」
ふるふるとナスヴェッターは首を横に振った。
彼に被害が及んでいないことを本人の口から聞くことができ、アリアは安堵の息を吐いた。
「よかった」
心の底から言った一言に、ナスヴェッターは一歩下がった。
とん、と背中がドアに当たる。
「僕は、」
か細い声が聞こえた。
「ぼくは」
ドアに体重を預け、ナスヴェッターはそのままずるずると座り込んだ。
目元を手で覆い、涙で声が震えていた。
「あのとき、死ぬべきだったんだ」