第4章 自分の大切な人を心配させないように
紙袋の汚れ具合から薄々勘づいてはいたが、中身は悲惨な有様だった。
紅茶のパッケージは変形していて、紅茶の茶葉も袋の中に散らばっている。ただ胸を満たすいい香りだけがした。
「あの2人が踏んで行ったんだろうな」
紙袋についたいくつかの靴跡を見ながら、リヴァイが吐き捨てるように言った。
紅茶好きの彼としても許せないのだろう。
「……また、買いに行かなきゃ」
肩を落とし、アリアは呟く。
顔を上げ、しかめつらのリヴァイに苦笑した。
「すみません、リヴァイさん。この前のお礼に紅茶をと思ったんですが……もうしばらくかかりそうです」
リヴァイは何度か瞬きを繰り返し、じっと紙袋を見つめていた。やがて目線が上がり、アリアの口元辺りを漂う。
「……麓の紅茶屋で買ったのか?」
「え、はい。そうです」
突然の問いかけに面食らう。
なにかにためらうようにリヴァイの目が揺れた。常にキリッとした顔しか知らないアリアは珍しいものが見れたな、と見当違いなことを思った。
「あそこにはいい茶葉が揃ってる」
「は、はい。そう思います」
「お前が選んだその茶葉は俺も好んで飲むものだ」
「そうなんですか!」
「茶葉のストックももうすぐ切れそうだ」
「…………」
言わんとしていることがわからず、思わず黙る。
リヴァイがあまり社交的なタイプではないことは知っていたし、ぽんぽんと会話が弾むような人間でもないことも知っていた。
だからこそ、うまく話ができていたと思っていたのだが、今この瞬間だけでは言いたいことがなにもわからない。伝わってこない。迷路に迷い込んだようだ。
「…………」
「…………」
「次」
「はいッ!」
「次、またあの店に行くときは」
ぱちっ、とアッシュグレーの瞳と視線がかち合った。
「俺も一緒に行く」
アリアは目を見開く。
なにか言わなければ、と思うが言葉がうまく出てこない。そうこうしているうちにリヴァイは立ち上がり、医務室のドアへ向かっていく。
「リ、リヴァイさん!」
やっと出てきた声にリヴァイが振り返った。
「えっと、た、」
頬を赤くして、アリアは笑った。
「楽しみ、に、しておきます!」