第4章 自分の大切な人を心配させないように
アリアはゆっくりと目を開けた。
まず視界に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。その後に消毒液のにおいが鼻をつく。そして、全身に鈍い痛みが広がった。
「っ……」
痛みに顔をしかめながらも、慎重に上半身を起こした。
見回す限り、恐らくここは医務室。思うように動かない右腕は包帯とギプスで固定されていた。顔も動かしづらい。薬液に浸された布が当てられて、包帯でぐるぐる巻きにされているらしい。
ようやくアリアは自分の身になにがあったのかを思い出した。
リヴァイに紅茶を届けようと歩いていると、突然ベインとオトギに中庭の草むらに引きずり込まれたのだ。
あれからの記憶が曖昧だ。ただ、だれかに──リヴァイに助けられたのは覚えている。
「ナスヴェッターさんは」
そうだ。ナスヴェッターは大丈夫だろうか。
襲われているとき、2人が彼のことを話していた。次はナスヴェッターを殴りに行く、と。
ベッドから転がり落ちたアリアは、痛みなど気にもせず医務室のドアまで走った。
「アリア」
「リヴァイさん!」
ドアは向こう側から引っ張られた。驚いている間にドアを開けた人間、リヴァイと正面衝突した。
リヴァイはアリアの裸足に目を留め、診療着のまま外へ出ようとしたことに渋い顔をした。眉間に刻まれたシワがいつもの数倍は深い。
「ベッドに戻れ」
さすがのアリアもそれ以上なにも言えず、できず、大人しく元いたベッドに潜り込んだ。
リヴァイもそれに続き、ベッドサイドに置かれていた椅子に腰掛けた。
「……あの」
「怪我はまだ痛むか?」
「え、あ、はい。痛いです」
改めて聞かれると痛みが倍増したような気がする。
口をモゴモゴさせるアリアを見ながら、リヴァイが口を開いた。
「なにがあったか、全部話してやる」