第4章 自分の大切な人を心配させないように
彼はアリアが傷つけられたことが許せなかった。
犯人を自分の手で殺してしまいたい気持ちと、殺したところでなんの解決にもならないことを理解している冷静な気持ちとで葛藤していたのだろう。
あの膜のように張っていた氷は、胸の内で暴れる感情を抑えておく最後の砦だったのだろう。
「殺さなかったのは懸命な判断だよ。彼らからいろいろと聞き出せる」
エルヴィンは微笑んだ。
口元は優しく弧を描いている。しかし目元に笑みはない。極めて冷たい光しかなかった。
エルヴィンもリヴァイも2人とも、行動には出さないだけで、ひどく怒っているはずだ。
ベインとオトギは運が悪かった。
殴るのならナスヴェッターを殴ればよかった。アリアに手を出してしまったのが彼らの運の尽きだった。
「リヴァイ、ここまで連れてきてくれてありがとう。あとは私たちがやっておく。ナスヴェッターはすまないがここに残ってくれ」
「りょ、了解です」
「アリアは?」
「ハンジがそばにいる。安心していい」
「……そうか」
最後に床に転がる2人を睨みつけ、リヴァイは来たときとは打って変わって静かに部屋を後にした。
「団長、どうされますか?」
「そんなもの、もう決まっている」
本当に運が悪かった。
ベインとオトギは知らなかったのだ。認識を誤っていたのだ。
アリアには人を惹きつける魅力がある。それはいつも明るく、朗らかな性格かもしれない、あるいは裏表のないまっすぐな行動力なのかもしれない。
彼女の明るさに救われているのはナスヴェッターだけではなかった。
エルヴィンやリヴァイ、それにハンジ。あぁ、もしかするともっと。
確実にその中に、決して怒らせてはいけない人がいた。
それを、彼らは知らなかった。