第4章 自分の大切な人を心配させないように
もう一つ、ナスヴェッターには聞かなければならないことがあった。
「……アリアは、大丈夫なんですか?」
再び前を向いて歩き出したリヴァイの肩がかすかに揺れた。
ベインの襟首を握っている腕に血管が浮かんだ。
「あぁ。ひでぇ有様だが、死ぬほどじゃない」
「で、でも、腕を折られたって……」
「……右腕だ」
ただ真面目に兵士としての務めを果たしていたアリアが巻き込まれてしまった。巻き込んでしまった。
その事実が、ずしっとナスヴェッターにのしかかった。
明るく、常に笑顔を絶やさない彼女の心をひどく傷つけたに違いない。
謝罪しても到底許されることではない。
「ナスヴェッター」
不意にリヴァイが名前を呼んだ。
「は、はい」
「あんまり自分を責めるんじゃねぇ」
「……で、ですが」
「悪いのはお前じゃない」
ある部屋の前でリヴァイは足を止めた。
その扉を見上げ、ナスヴェッターは息を呑む。
「この、薄汚れた醜いこいつらだ」
乱暴に、まるで物のように、リヴァイはベインとオトギを扉に向かって投げ捨てた。大きな音を立て、2人は扉を突き破って部屋の中に転がり込む。
「リヴァイ、気持ちはわかるがもう少し丁寧にドアは開けてくれ」
「ノックもなしとは、相変わらずだな」
そこは普通の兵士なら滅多に入ることを許されていない団長室だった。
広々とした部屋の中には困ったように眉を下げるエルヴィンと厳しい顔をしたキースがいた。
すぐさま敬礼する。だがキースはそれに手を振って敬礼をやめるよう促した。
「リヴァイの言う通りだよ、ナスヴェッター」
ソファーに座っていたエルヴィンが立ち上がり、薄く意識を取り戻しつつあるオトギと、細く息を繰り返すベインを一瞥した。
「自分を責めることはない。兵士とは言え、1人の女性に男2人で襲い掛かったのは彼らだ。すべてにおいて責められるべきは彼らさ」
「俺の手で殺してやってもいい。……だが殺したところでアリアが悲しむだけだろうからな」
あぁ、そうか。
不意にナスヴェッターはリヴァイの気持ちを理解できた。