第4章 自分の大切な人を心配させないように
激しい音を立ててドアが蹴破られた。
ベインに馬乗りになられ、身動きのできないナスヴェッターは最後の望みをかけてドアを見た。
「あ? 勝手に入ってくんじゃねぇよ、ゴロツキが」
リヴァイが立っていた。
闇夜を背中に、無表情で立っていた。
彼はベインの言葉を無視し、ずかずかと部屋に乗り込んでくる。
ベインとナスヴェッターを助けることもせず、見ていた同室の同期たちは、まるで金縛りにあったように動けずにいた。
「リヴァイ、さん」
あわや殴られる寸前。ナスヴェッターは安堵感と一緒に声を吐き出した。
だがリヴァイはナスヴェッターの声も聞こえていないのか、立ち上がったベインの前で止まった。
無謀にもリヴァイを追い出そうと掴みかかったオトギはあまりにも呆気なく床に叩きつけられた。その間、リヴァイは片腕しか動かしていない。
オトギの痛みにうめく声だけが部屋に響いた。
「なんだぁ?」
冷え切った目のリヴァイにベインが詰め寄る。体格差は明確で、ベインの手にかかればリヴァイなど簡単に吹き飛ばされてしまいそうだった。
信じられないほど張り詰めた緊張感が部屋に満ちていく。
次の瞬間、なんの予備動作もなく、リヴァイがベインの腹に拳を叩き込んだ。
「ぅぐッ!?」
突然の強烈な拳。
ベインは言葉少なにその場にうずくまった。
「アリアを殴ったのは、お前だな?」
この部屋に来て、リヴァイが初めて口を開いた。
声を荒げたわけでもない。強い言葉遣いでもない。それなのに、たった一言に込められた怒りは、部屋にいる全員の体を震え上がらせた。
ベインは腹を押さえたままうめくだけだ。
それを見下ろし、リヴァイは舌打ちをした。直後、もう一発、今度は拳ではなく蹴りを。腹ではなく、顔面を。
ブーツの先がベインの頬にめり込んだ。軽々と真横に吹き飛ばされたベインは壁に体をぶつけ、悲鳴にもならない空気を吐き出した。
「聞かれたことにはちゃんと答えろよ。躾のなってねぇガキだな」
大きく息を繰り返しながら、ベインはリヴァイを見上げた。
その目は恐怖で染まっていた。決して逆らえない圧倒的な力に、ただ身を縮めることしかできないようだった。