第4章 自分の大切な人を心配させないように
リヴァイは中庭のほうにランプを掲げる。
静かに、音のした場所へ向かう。そこは生い茂った草の後ろだった。
だれかが甲斐甲斐しく世話をしている花壇の花が無惨に踏み潰されている。
草を乱暴にかき分けた跡がある。
「アリア」
ランプの光の先に、彼女がいた。
「アリア!」
ハンジが叫び、アリアのそばに跪いた。
何者かに殴られたのか、アリアの顔は痛々しく膨れ、紫色に変色していた。切れた唇から血が垂れる。美しい金髪は切られはしていなかったものの、引っ張られ、至る所に散らばっていた。そして、彼女の右腕はおかしな方向を向いていた。
「アリア、アリア!」
ハンジが何度も呼びかけると、アリアがかすかに呻いた。
息はしている。死んではいない。
「医務室に運ぶぞ」
ハンジにランプを押しつけ、リヴァイはアリアの体をそっと横抱きにした。
「リ、ヴァイ、さん」
息のもれる音と共にアリアの唇が動く。
なにかを伝えようとしていた。
彼女の声を聞き漏らさないように、リヴァイは耳を寄せた。
「ナ、スヴェッ、ターさ、んが、」
あぶない。
アリアはそれだけを言い残し、意識を失った。
「リヴァイ、アリアはなんて?」
「……とにかく医務室だ」
これからなにをどうするべきか。
リヴァイの行動はその瞬間決まった。
常駐している医者を叩き起こし、アリアを預けたあと、ハンジはキースとエルヴィンへの報告に走った。
そしてリヴァイは。
ナスヴェッターの部屋の前で立ち止まっていた。
中からはドタバタと大きな物音と、ナスヴェッターのくぐもった声が聞こえていた。
ここにいる。ベインとオトギが。
静かな、しかしたしかな怒りに包まれながら、リヴァイはそのドアを思い切り蹴り飛ばした。