第4章 自分の大切な人を心配させないように
「それで私はこう仮説を立てたんだ──」
時刻は進み、真夜中に近づいたころ。
ハンジは半歩前を歩くリヴァイに向かって熱く巨人について語っていた。ランプをぶら下げたリヴァイはそれらを聞き流しながら部屋を目指す。
リヴァイの部屋は男子棟にあり、ハンジの部屋は女子棟にあるはずなのだが、なぜか彼女はリヴァイの後ろをいつまでもついて来ていた。
大方、このまま部屋ではなく執務室に戻り、研究にでも打ち込むのだろう。明日、徹夜をしたハンジを叱るモブリットがありありと想像できた。
「……あ?」
カサッ、とつま先がなにかを掠めた。
突然立ち止まったリヴァイを通り過ぎ、ハンジは「どうしたの?」と振り返る。
「紙袋……?」
足元にランプを向けると、そこに落ちていたのはくしゃくしゃの紙袋だった。
リヴァイは辺りを見渡す。
場所は中庭に面した廊下。動いている人の気配はない。
「これは」
ハッと息を呑み、ハンジはその紙袋を拾い上げた。開けたとき、ふわりとリヴァイの鼻を紅茶の茶葉のいい香りがくすぐった。
それはリヴァイが好んで飲む紅茶でもあった。
「だれの物かわかるのか?」
ハンジの顔を見て、リヴァイは顔をしかめた。
真っ青だった。唇まで色を失い、手はかすかに震えていた。
「おい」
いつまで経ってもなにも言わないハンジに声をかける。
ようやくハンジの口が動いた。
「アリア、の、物だ」
「……は?」
「アリアが買った物だ」
そんな物がなぜここに。
こんな夜遅くに男子棟と幹部の執務室しかない方面になにか用でもあったのだろうか。
「近くにアリアがいるはずだ!」
紙袋を握りしめ、ハンジが言った。そのあまりにも必死な声音にリヴァイの肌を嫌な予感が這った。
「エルヴィンがこぼしてたんだ。アリアとナスヴェッターが同じ調査兵団の兵士に命を狙われてるかもって」
「……ベインとオトギか」
リヴァイの脳裏に嫌な2人の顔がよぎった。
「もし、この紅茶を届けようとして、アリアが1人でここを歩いていたとしたら? 彼らが今日、アリアを襲おうと計画していたとしたら?」
そのとき、中庭のほうから物音がした。