第4章 自分の大切な人を心配させないように
その日の朝食時間、食堂。
ベインは驚いていた。口に運ぼうとしたスープを膝の上に落としてしまうくらいには。
「なんで」
ベインは呟く。彼の視線を追ったオトギもぎょっとしたように目を見開いた。そこにはナスヴェッターがいた。
「あいつの立体機動装置には細工をしたはずだ」
アリアとナスヴェッターの推理は正しかった。
彼らの立体機動装置をいじり、大怪我を負わせる、あわよくば殺そうとしていたのはこの2人だ。
「早朝の訓練に行くのも見届けた」
ナスヴェッターは訓練場に人がほとんどいない早朝に訓練することはちゃんと調べていた。彼が訓練場に行くのも見た。
「自力でなんとかしたんすかね」
忌々しそうにナスヴェッターを見ながら、オトギが言う。しかしベインはその言葉に首を横に振った。
「そんなの無理だ。高いところから落ちて、無傷はあり得ねぇ。骨折くらいしてねぇと……」
見るからにナスヴェッターは健康体だ。どこかが痛むそぶりもない。
失望と苛立ちがベインの体を蝕む。
「……アリア・アルレルト」
1人で朝食を食べていたナスヴェッターのそばにアリアが現れた。
アリアはもう食べ終えたのか、ナスヴェッターと二言三言喋ったあと、すぐにいなくなった。
ベインが手にしていたスプーンがバキッと音を立てて割れた。
「べ、ベインさん?」
「あの女だ」
そうだ、そうに違いない。
目を血走らせ、ベインはアリアが出ていった食堂の出入り口を睨みつけた。
「あの女がナスヴェッターを助けたに違いねぇ」
吐き気が込み上げた。
怒りのみに突き動かされるように、ベインは立ち上がる。
「どれだけ俺の邪魔をすれば気が済むんだ……。俺の手で、ちゃんと痛ぶってやる」