第4章 自分の大切な人を心配させないように
やはり美しい。
朝焼けを浴びながら縦横無尽に飛ぶその姿。髪がなびき、普段は隠れているナスヴェッターの両目をあらわにする。
思わず見惚れながら、アリアも飛ぶ体勢になった。
そのとき。アリアはナスヴェッターの異変に気づいた。
アンカーを引っ込め、次の目標に刺すはずなのに。なぜかナスヴェッターはそれをしなかった。空中でアンカーをどこにも刺さずに身を投げている。
「ナスヴェッターさん?」
ナスヴェッターの体が後ろへ泳いだ。
あ、と思う暇もなく、彼は落下していく。見上げるほどの高さから、落ちていく。
考えている時間などなかった。
アリアは走り出し、大きく踏み込んだ。
「ナスヴェッターさん!!」
ぐんっと飛翔した体はまっすぐナスヴェッターのほうに向かう。
開いた両腕がナスヴェッターを包んだ。たまらず、と言ったようにナスヴェッターはアリアの服を握りしめた。
「そのままでいてください!」
前方に見える木にアンカーを投げ、まず体勢を整える。
アンカーが木を離れ、アリアとナスヴェッターの体は空中に浮いた。
「ひっ」
耳元でナスヴェッターの息を呑む音が聞こえる。
アリアは歯を食いしばり、自分の体を下にしてそのまま落ちた。
「アリア!!」
「大丈夫です!」
こういうとき、どうすればいいのか。どうすれば怪我をせずに着地できるのか。
アリアは知っていた。以前、その身をもって体験した。
── 特に特別なことはしていない。ただ担いで、ガスで勢いを殺して着地しただけだ。
リヴァイの言葉が蘇る。
あのときは、そんな簡単にできるものなのか、と思ったが、今はするしかない。それしか助かる方法はない。
ガスの噴出量を調整。目一杯蒸す。
地面とぶつかる寸前、ガスがクッションのようにアリアの体を受け止めた。ゆっくりと慎重に、アリアは着地した。
かたい地面。
その上に、アリアはナスヴェッターを抱えたまま座り込んだ。全身が震えてしばらく立ち上がれそうにない。
「ありがとう、アリア」
同じように体中を震わせたナスヴェッターが今にも消えそうな声で言った。