第4章 自分の大切な人を心配させないように
その時間に目覚めたのは偶然だった。
アリアは薄暗い部屋の中、ベッドに寝転び天井のシミを数えていた。
目だけを動かして壁にかかった時計を見る。短針は5を指している。起床の鐘が鳴るまであと2時間はある。
窓の外はほのかに明るい。日が昇ってき始めたのだろう。
アリアは上半身を起こした。
二度寝をする気分ではない。かといって食堂が開く時間まで読書をする気分でもない。
(……体でも動かそうかな)
グリュックと遊ぶのもいいかもしれない。
だが、なんとなくアリアの今の気分は立体機動だ。
そうと決まれば訓練場に行かなくては。
アリアは軋むベッドから降り、寝巻きから着替えていく。ベルトをつけ、立体機動装置を手に取った。
この数年でいくつもついたへこみや傷を指でなぞる。
「今日も1日よろしく」
なにかに祈りを捧げるように、アリアは囁いた。
「ナスヴェッターさん?」
訓練場には先客がいた。
朝焼けに横顔を照らされながら、ナスヴェッターが振り返った。
「アリア。お、おはよう」
弱々しく──ナスヴェッターらしい笑顔を彼は浮かべた。
初めて会ったころよりかはずいぶんどもりが少なくなったのは、親しくなった証拠かもしれない。
「おはようございます」
なんて思いながら、アリアも笑う。
「ナスヴェッターさんも今から立体機動ですか?」
グリップを握りしめた彼がこくりと頷く。
「わたしもなんです! よければご一緒しても?」
「あぁ、もちろん。君の飛翔は、その、すごく参考になるんだ」
密かに目標にしていたナスヴェッターからそう言われ、アリアはパッと顔を明るくさせた。
「ありがとうございます!」
ナスヴェッターはへらり、と照れを隠すように笑い、まばらに生えた巨大樹へ視線を向けた。
カッ、カッ、とアンカーがまっすぐ突き刺さる。ガスが蒸され、流れるようにナスヴェッターの体が浮遊した。