第4章 自分の大切な人を心配させないように
心地良い揺れにふと意識が浮上する。
ハンジは自分が寝ていたこと、そして今だれかにおぶわれていることをすぐに理解した。
「……アリア?」
視界に広がるのは柔らかな黄金(こがね)色の髪。
その髪の持ち主の名を呟けば、すぐに返事があった。
「はい。アリアです。起こしてしまいましたか?」
寝ぼけてはっきりとしない顔を動かし、辺りを見渡す。
そこは兵舎へと続く坂だった。
街から兵舎へ伸びる坂は傾斜が急だ。よく兵士のトレーニングで使われていることもある。
「ハッ! ごめん、アリア、私を背負ってこんな坂登らせてるなんて! 降りるよ。ここまで運んで来てくれてありがとう」
しんどいだろうに息切れ一つしていないアリアは立ち止まり、そっとハンジを地面に下ろした。
本当にありがとう、と手を合わせるハンジにアリアはなんてことないように笑った。
「いいトレーニングにもなりましたし、もともとハンジさんに紅茶について教えてくれって執務室に押しかけたのはわたしなんです。気にしないでください」
「……優しいね、アリアは。文句の1つでも言ってくれてもいいんだよ?」
「そんなこと言いませんよ。ハンジさんだってお疲れだったんでしょう? 眠ってしまうのも仕方ありません」
そろそろ歩きましょうか。
そう促され、ハンジはアリアと共に歩き出した。
しばらく沈黙が続く。
「ねぇ、アリア」
それを破ったのはハンジからだった。
「はい」
ハンジの1歩後ろを歩いていたアリアはすぐに返事をする。
「アリアは初めて私と会ったときのこと、覚えてる?」