第4章 自分の大切な人を心配させないように
壁一面に並ぶ紅茶の茶葉。ショーケースに陳列されている紅茶の茶葉。
とにかくたくさんの茶葉がアリアとハンジを出迎えた。
「うわぁ……」
「す、すごいね」
圧巻の光景にアリアはただ感嘆の声をあげることしかできなかった。
胸いっぱいに紅茶の良い香りを吸い込んで、自然と口角が上がった。
「この中からリヴァイさんに気に入ってもらえる紅茶なんて見つかりますかね……」
1つ1つの茶葉に添えられた説明書きを見て回りながら後ろをついて来るハンジに囁く。ハンジは困ったように笑って肩をすくめた。
「自分が好きな香りのものを見つけるのもいいかもしれないよ」
「なるほど! その手がありましたか!」
なんとなくでアドバイスしてしまったが、ハンジにだれかに紅茶をプレゼントしたことがあるかと聞かれれば「ノー」だ。
だがアリアはハンジのアドバイスに納得したように何度も頷きながら再び紅茶の物色に戻った。
気になったものの香りを嗅いだり、店員に話を聞いたり。
かれこれ30分は悩んだだろうか。
「決まりました!」
さまざまな紅茶の香りで正常に機能しなくなった鼻を擦りながら、アリアはハンジを振り返った。
「って、あれ?」
すぐ後ろにいたはずのハンジがいない。
ぐるりと店内を見渡すと、ハンジは店の隅っこに置かれている脚立の上に座り、目を閉じていた。
お金を払い、品物を受け取ったアリアは静かにハンジに歩み寄る。
「ハンジさん?」
眠っている。
よほど疲れているのか、軽く揺すっただけでは起きそうにない。
次の壁外調査では巨人の捕獲を予定していると言っていた。それの準備に忙しいのだろう。
だが、ここは心を鬼にして起こさなければ。
「ハンジさん、起きてください」
少し声を大きくして、強めに肩を揺すった。
ピク、と瞼が動く。だが目は開かない。これは熟睡だ。
(……しょうがない、か)
アリアは「失礼します」と呟いて、ハンジの両腕を肩に乗せ、膝裏に手をかけて背負った。
さすがに軽々、とまではいかなかったが、人1人持ち上げられなければ兵士なんて務まらない。
揺らさないように注意して、アリアは店を出た。