第2章 夢を見る
「はぁ~~~~」
長い長い長いため息をつき、アリアは全身の力を抜いた。
ここは訓練兵団の共同大浴場。
もわもわと広がる湯気の中、湯船に浸かったアリアはだらりと浴槽の縁に頭をもたれさせる。
「お疲れ、アリア」
ざぶん、と湯が揺れる。
首を動かすのも面倒で目だけを横にやれば、オリヴィアが労るような笑顔を見せてくれていた。
「ありがとう、オリヴィア~。もうどっと疲れた……」
表ではなんてことないように振る舞い、エルヴィンたちの相手をしたが、実は心の中ではだいぶ焦っていた。
なにか不躾なことをしていないだろうか。気に触るような言動をしていないだろうか。変な顔をしていないだろうか。
気にしだしたらキリのないことだが。
「あの2人ってたしかにこう……圧って言うのかしら。悪い圧じゃなくて……なんて言うの……たしかにすごいオーラはあるわよね」
一言二言言葉を交わしただけのオリヴィアでも、緊張し、とても疲れてしまった。
その緊張感を約2時間も味わったのだ。伸びるほど疲れるのも当然だ。
「ほんとにね……。わたしも調査兵団に入ったらあんな風になれるのかな?」
「えー! アリアが? 無理無理。あんなオーラを出せるようになるにはあと人生2周くらいしないと無理よ!」
「そこまで言う……?」
「でもいつも死と隣り合わせで、自分の判断で仲間の命を危険に晒すかもしれないところにいたら嫌でもああなるわよ」
「……うん、そうだね」
調査兵団では壁外調査に行ったとき、行って帰って初めて1人前と言われるらしい。
巨人を何体討伐とか、優れた功績を残すとか、そんなことより行って帰って来ることが最も意味のあることなのだ。
「……怖くなった?」
ぽつっ、とオリヴィアが呟く。
アリアは一瞬黙り、緩く笑った。
「怖くないって言ったら嘘になるよ。でも……きっと後悔はしない」
きゅっと唇を結んだアリアにオリヴィアも口角を上げた。
「そうね! がんばろ! アリア!」
「うん!」