第4章 自分の大切な人を心配させないように
「アリア」
2人に背を向けたアリアはミケに呼び止められ、振り返った。
「お前の班にベインとオトギという兵士が入っただろう?」
突然なんの話だろう、と思いながらもアリアは頷く。
「あの2人はもともと俺の班にいた。だがエルヴィンの分隊の人数不足により引き抜かれたんだ」
「はい。エルヴィン分隊長から聞いています」
慎重に言葉を選ぶように、ミケの口調はゆっくりだった。
「あいつら――特にベインは調査兵団に入ってからは聞かないが、訓練兵のときはあまりよくない噂があった」
「よくない、噂、ですか?」
アリアはベインを思い浮かべるが、優しそうに笑っていたし、そこまで悪い人には見えなかった。
聞き返すと、ミケは厳しい表情で頷いた。
「野心が人一倍あり、自分より優秀な者や気に入らない者を暴力的に排除していたらしい。表立って騒がれていないのは被害にあった者が全員開拓地送りになっているからだ」
アリアは顔を強ばらせる。
開拓地送り。それはつまり兵士になる訓練を続けられなくなってしまった、ということ。自らそれを望むことでキツい訓練から抜け出すことができる。
しかし、ミケの口ぶりからするに、ベインの邪魔者として開拓地送りになってしまった人間はなにかしらの怪我でそうなってしまったのだろう。
自分の感情を優先させて仲間を傷つけるなんて……。
「調査兵団に来てからはそういったことはないが、一応気をつけておけ」
「了解です。ご忠告ありがとうございます」
仲間を疑うようなことはしたくないが、そんな噂があるということは事実、非道な行為をしていたのだろう。
注意して彼らと接しなければ。