第4章 自分の大切な人を心配させないように
「おかげさまで家族とゆっくりできました!」
ニコニコとハンジの言葉に答えながら、アリアは執務室へ足を踏み入れた。
「今お時間大丈夫ですか?」
執務室にはこの3人しかおらず、ほかの2人はどうやら訓練へ行っているらしかった。
アリアの問いかけにハンジは「もちろん!」と頷く。
モブリットが新たにティーカップを出してくれて、紅茶を注いでくれた。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、アリアはハンジと向かい合うように椅子に座った。
隣には二ファがいて、しげしげとアリアを見つめている。歳も近く、オリヴィアから明るくすごく良い人だと聞いていたため、アリアは二ファにも「こんにちは」と笑った。
「は! はじめまして!! ハンジさんから話は聞いてたけど、直接見るとほんとに大人っぽくてびっくりしちゃった……。あ、二ファです! よろしくね、アリア」
「ありがとうございます。よろしくお願いします、二ファさん」
それで、とハンジが口を開く。
アリアは二ファからハンジへ目線を移すと、聞こう聞こうと思っていたことを口に出した。
「リヴァイさんの好きな物をなにか知っていますか?」
リヴァイが調査兵団に入った当初からハンジとリヴァイは共にいる。話している――と言ってもハンジが一方的に喋っているだけだが、ところも見かける。
ハンジはぱちぱちと目を瞬かせた。
「リヴァイの好きな物?」
オウム返しに聞き返し、うーーん、と顎に手を当てた。
「彼と話すことはあるけど、基本的に自分のことは全然喋らないからなぁ……」
たしかにリヴァイが簡単に自分のことを人に喋るかと聞かれれば、想像ができない。
「そうだ、ミケにも聞いてみたら? 彼もリヴァイとは初対面ってわけじゃないし、たまに話してるもの見かけるよ」
「ミケ班長、ですか。わかりました! ありがとうございます!」
ぽん、とアリアの脳裏に無口な彼が浮かび、緊張が身を固める。
寡黙で人と深く関わらず、初対面の人の匂いを嗅いで鼻で笑うという、独特な人。
(……うまく喋れるかなぁ……)
一抹の不安を抱えつつ、アリアは執務室を後にした。