第4章 自分の大切な人を心配させないように
「次の壁外調査の日程が決まったことにより、お前たちをエルヴィン・スミス第1分隊へ異動とする。くれぐれも粗相のないように」
アリアとアルミンが並んで家に帰っているのと同時刻。
第1分隊3班の班長、ミケ・ザガリアスは後ろで手を組み、立つ2人の兵士を見下ろした。
「精一杯頑張ります」
「決してミケ班長の名を汚すような行いは致しません」
きりりと決意に満ちた目をした2人は意気揚々とミケの言葉に頷く。
ミケと同じくらいの大柄な男兵士は口元に余裕の笑みをたたえて。
もう1人のひょろりとした小柄な男兵士は意地汚さそうに目を細めていた。
「なら第1分隊に挨拶でもしてくるんだな」
「「はっ」」
ミケは一瞬2人の表情に目を止めたが、それ以上なにも言わずくるりと背を向けた。
2人の兵士はミケに敬礼をすると、揃って執務室から出て行った。
パタリ、と背後でドアが閉まる。
「やっとだな」
大柄な兵士──ベインは呟く。
「ようやくあいつに痛い目を見させることができるっすね」
ベインの呟きに、小柄な兵士──オトギは笑いながら頷く。
2人の目にさっきまでミケに見せていた優秀な兵士の光はない。
「待ってろよ、ナスヴェッター」
今はただ、復讐に取り憑かれたギラギラとした危険な輝きがあった。
「第1分隊と言えばアリア・アルレルトはどうなったんすか?」
自室に戻りながら、オトギは1歩前を歩くベインに尋ねた。
ベインはちらりとオトギを振り返る。その顔は不機嫌そうに歪んでいた。
「立体機動装置に細工したあとの訓練を見てたが、かすり傷ひとつついてねぇ。あのゴロツキの野郎に助けられてやがった」
「はぁー、マジすか。ま、次は大丈夫っすよ。ナスヴェッターは早朝によく訓練してますから」
ベインは自分の手のひらに拳を打ち込み、嫌な笑いを顔に浮かべた。
「楽しみだぜ」