第4章 自分の大切な人を心配させないように
「姉さん、次はいつ帰って来られる?」
帰り道。
アリアはアルミンの小さな声に「うーん」と困ったように笑った。
「次は来月になるかな」
次の壁外調査の日程が決まればさらに帰ってくるのが難しくなる可能性がある。
「……そっか」
アリアの返事にアルミンは残念そうにうつむいてしまった。
「巨人との戦いが終わったらずっといっしょにいられるよ」
巨人をすべて駆逐して、壁もすべて取り払った世界になったら。
アリアはまた兵士になる前のような生活ができる。
「毎日アルミンとお喋りして、おじいちゃんのお手伝いをして、エレンとミカサとも遊べる。だからそれまで……我慢しててね」
しかしアルミンの顔は晴れなかった。
「でも、姉さん」
ちょっと言いづらそうにモゴモゴしたあと、アルミンは意を決したように顔を上げた。
「姉さんは好きな人がいるんでしょ? その人といっしょにいなくていいの?」
びくっ、とアリアは肩を動かした。
まさかここでそれを突っ込んでくるとは思わなかった。
アルミンの目は真剣そのもので、アリアをしっかりと見上げていた。
「で、できればそうしたいけど……たぶん、その人は姉さんのことをなんとも思ってないはずだし」
言っていて悲しくなった。
だが事実、そうだろう。
アルミンは納得しないように眉を眉間に寄せた。
「ぼくだったら姉さんのことぜったい好きになるのに」
ぶすくれた唇からこぼれた言葉。
アリアは今すぐアルミンを抱きしめたいのをなんとか踏みとどまり、笑った。
「ありがと、アルミン」
「もしその人が姉さんのことを嫌いって言ったら……ぼくが代わりに言ってあげるよ」
なにを? というように眉を上げたアリアにアルミンは意気込んだまま言った。
「姉さんは世界一すてきだって!」
ついにアリアはこらえきれず、その場でアルミンをふわりと抱き上げ、くるりくるりと回る。
アルミンは驚いたように目を見開き、すぐに楽しそうに歓声を上げた。
「アルミン、あなたも世界一の弟だよ!」
こんなにも素敵な弟を持てて幸せだ。
アリアは笑い、心の底からそう思った。