第4章 自分の大切な人を心配させないように
余計なことをして怒られるのは嫌だからわざと動かない人もいる。
エレンも、ここでまた喧嘩すればカルラに怒られることはわかっていたはずだ。それなのに、動いた。
「エレン、あなたは自分の正義を信じて突き進める人。なにがあっても自分の考えを曲げずに真っ直ぐ前を走っていける人。わたしは、そんなエレンが弱いだなんて絶対に思わない」
ゆっくりと、顔があがった。
目を真っ赤にして、鼻水をすすりながらエレンはアリアを見た。
「……ほんとに?」
「えぇ。本当に」
涙に濡れたぬくい頬を両手で包み込んで、アリアは励ますように笑った。
「でもね、エレン」
笑みを少し引っ込め、真剣な声でアリアはエレンを見据えた。
「こうして自分の体を傷つけるのはよくないよ」
エレンの唇が結ばれる。
アリアの話を聞き漏らすまいと、息を詰めているようだった。
「自分の正義を貫くために、自分の体を傷つけるのは違う。みんなに心配をかけるでしょう?」
エレンはアリアからミカサとアルミンに目を移した。
眉に力を込めているミカサ。不安そうにエレンを見つめるアルミン。それを見て、エレンは自分が2人に心配をかけたのだと気づいたようだ。
「エレン、わたしはあなたのことを責めたりしない。あなたのその行動力があなたの魅力だから。でもそれだけじゃあダメ。だから、約束して」
アリアはエレンに右手の小指を差し出した。
「ミカサやアルミン。自分の大切な人を心配させないように真っ直ぐ前へ走って行って」
エレンは深く頷いて、アリアの小指に自分の小指を絡めた。
「約束する」
まだ涙声で、鼻もすすっている。だがその目は、その穢れのないグリーンの目には強い光が宿っていた。
「よし、じゃあ帰ろっか」