第12章 予定外の連続
ウイスキートリオside―
部屋に入るなりバスルームへ消えていくマティーニ。荷物はその辺に置いたまま。こちらを警戒してるのかそうでないのか、どちらにしても何を考えているのかよくわからない。
予定外の連続で肉体的にも精神的にも疲れている。昨日急にマティーニも同行する、と連絡がきた。断りを入れたけどあまりに言い過ぎて不審に思われるのも避けたいと思い、渋々承諾したが。
初対面の時や任務中のあの雰囲気。責任は私がとる、と言ったこと。相手組織を降伏させた時。冷酷な闇組織の幹部としての顔。コードネームがあると聞いた時は驚いたが、納得できるだけの能力がある。十分警戒するに値する人物であるとは理解したものの。
それ以外の時。電車に乗ってる間やここに来てからの姿。年相応……それより下のような振る舞い。それだけを見ていたなら警戒できなかった。
「なんつーか……ギャップ?すごいな」
スコッチのその言葉に2人も頷いた。
するとバーボンのスマホが振動する。取り出してみると非通知からの着信。
「はい」
「Hi、バーボン。マティーニが電話に出ないんだけど、そこにいるかしら?」
ベルモットの声。マティーニがここに来るまでに報告をあげていた様子はなかったな……と思い返す。うまい言い訳が思いつかず、あるがままのことを話す。
「……今シャワーを浴びていますよ。慣れない電車に疲れたようで」
「ああ、泊まってくるんだっけ?まさか貴方と同じ部屋……」
ガタン
その音に振り返るとギターケースが倒れたらしい。
「何……まさか全員一緒?」
「ええ……いろいろありまして……」
「あの子もなに考えてるのかしら……」
ベルモットの呆れた声に苦笑いを浮かべることしかできない。
「それで、今日の取引は?」
「実は……」
と先程あったことを伝える。それを聞き終わるとベルモットため息をついた。
「あの子行かせて正解ね」
「ええ、本当に助かりましたよ」
「ご苦労さま。ゆっくり休んで……あ、それと」
「なんですか?」
「警告しておくけど……あの子に手を出すとジンに殺されるわよ。気をつけなさい」
「ジン……ですか?」
「詳しいことは言えないけど……それじゃ」
切れた電話。2人の目つきは険しくなっている。
「……なんて?」
「死にたくなければマティーニに手は出すなと」