第111章 交わる銀色※
ジンside―
逃げるようにベッドから降りていった背を見送ってフッと笑いが漏れた。
出入口のない部屋。あの場所で起きた事は理解できない事だったが、あれは現実だ。
これからという所でアイツが意識を飛ばしたかと思ったら、微かに物音がした。そちらに目を向ければ何も無かったはずの場所に扉が現れていた。それを見て己と同じ姿のヤツと目を見合わせたのは無理もないだろう。
「どうする」
「選択肢が他にあるか?」
留まり続けるという選択肢はない。ならば扉から出てみるしかないだろう。立ち上がろうとしたが、お互いにアイツを抱きかかえようとするからしばらくの睨み合いが続いた。その後、柄にもなくジャンケンなんかするとは思わなかった。アイツが見たら絶対笑うだろう。冗談じゃねぇ。
勝った俺がアイツを抱きかかえて、負けた俺がその扉を開けた。眩しすぎるくらいの光に包まれて、気づけばこの部屋にいた。
最初こそ誰かの変装を疑ったが、目の前にいるコイツが自分自身であるという事は数分経てば嫌でも理解した。直感もそうだが、何よりアイツの反応があったからだ。
自惚れでないからこそ断定できたわけだが……アイツが本物と偽物を間違えるわけがない。だから仕方なく受け入れたし、存在を許した。偽物ならさっさと始末しただろう。
セックスも悪くはなかったが……己に抱かれて喘ぐアイツを見るのは複雑だった。だからこそ奥を抉って嫌でも意識させた訳だが。
洗面所の方から流れる水音を聞いて僅かに切れた唇を舌先で舐めた。そして、腕に残った爪の痕を見つめた。
アレが自分自身だと決定付けた原因がこれだ。それぞれに付けられたはずの噛まれてできた唇の傷と腕を掴まれた時の爪の痕。それぞれに付けられたはずの傷が俺一人にある。奇妙だが、納得せざるを得ないだろう。
物音がしてそちらを向けばアイツが浮かない顔をしていた。
「なんだ」
『ん、いや……うん……』
歯切れの悪いコイツを横抱きにしてベッドに下ろした。
『な、なになに?!』
「任務ねぇだろ?」
服の中に手を入れると徐々に赤くなっていく顔に口角を上げた。
『無理!さっきしたでしょ!」
「ほぅ?誰とだ?」
『あ、あれはその……』
「その身体に聞いてやる」
そう言って唇を塞いだ。
2人で相手するのも悪くなかったが……コイツの相手は俺一人でいい。