第11章 理由なんてないわ
『貴方のこと、信用はしてるけど信頼はしていないから』
ボスがコードネームを与えたのなら能力的な問題はないはず。でも、全てを信じることなんてできない。
「……では、これから信頼していただけるように努力しますよ」
崩れることのないポーカーフェイス。その余裕そうな顔はどうしても好きになれない。
見慣れた景色に戻ってきた。やっとこの空間から抜け出せる。待ち合わせた場所に車が停まった。
「短い時間でしたがお話できて楽しかったです」
『……』
「よろしければまた……貴女のこともっと知りたいですし」
『なんで私……恋人とかいないの?』
「ええ、残念ながら」
そう答える表情も余裕そうで。それをどうにか崩したくなった。
座席から身を乗り出してバーボンの頬に手を添える。綺麗な目してる。この組織には似合わないような。
「何か……っ」
言い終わる前にその口をキスで塞いだ。ピクっと反応したが、抵抗することなく受け入れられる。唇を舐めれば薄らと開かれる。舌を差し込んだらそのまま絡め取られる。
どのくらいそうしていただろう。どちらからともなく口が離れた。口を繋いだ糸がプツンと切れる。
『慣れてるのね』
「貴女ほどではありませんよ」
さっきの表情より少しだけ余裕がなくなった気がした。それでも張り付いた笑みは変わらない。
「誘っていただいてるんですか?」
『まさか。貴方に抱かれる気なんかないわ……少なくとも今は』
腰に伸ばされた手を払った。
「その気になったらいつでも歓迎しますよ」
バーボンは肩をすくめながらフッと笑う。
『それはどうも』
目を合わせることなく、そのままドアに手をかける。
「ああ、そういえば……また近いうちに組むことになるそうなのでよろしくお願いしますね」
……忘れてた。確かにベルモットにそんなようなこと言われた気がする。
『……ええ』
背を向けて答え、外へ出た。時間もだいぶ遅いのでいくらか寒い。
「それではお気を付けて」
4人に関してはまだアジトへの出入りが許可されていない。場所も伝えてないのでこちらが一度外に出ないといけない。手間ではあるけど、万が一の為の保険と思えば……。
ふと先程の子供達のことを思い出す。またどこかで会えそうな気がする。いいのか悪いのかわからない勘にフッと笑みが漏れた。