第11章 理由なんてないわ
「報告上げるの僕なんですから」
『はあ……』
めんどうだが、話さないと何を言っても帰してもらえない気がした。
会場を出た後に起こったことを順を追って伝える。
「……なるほど。だから役割を交代したんですね」
『そうよ』
理解が早いのは助かる。あの場でわざわざ連れを呼ぶなんて、いくら子供だからって違和感を抱くはずだ。
『あの部屋にいたヤツらが持っていた拳銃も全部偽物だったし、あんな組織と取引するだけ無駄だと思うから』
玩具で脅すことしかできないような組織は、警察に捕まれば簡単に情報を吐く。そんなリスクをこちらが負う必要はない。
「……にしても意外でした。随分人っぽいところがあるんですね」
『どういう意味よ』
「人を殺すことを躊躇わないような貴女が、子供を助けるなんて驚きました。どういった心境の変化ですか?」
『別に……理由なんてないわ』
ただなんとなく助けたかった。今となってはどうしてあの時怒りが湧いたのかもわからない。でも、もしあのまま助けることがなければ、きっと彼女達も私と似たような運命を辿ったのだろうか。
そこで車が向かう方向に違和感を覚える。
『どこに向かってるの』
「任務も終わったことですし、息抜きでもどうでしょう?せっかくですし話しながら」
『はあ……』
今の格好では嫌で人目に付くからここで降りるわけにもいかない。そこまで読んでいるなら本当にタチが悪い……不本意だが付き合うほかないだろう。諦めて背もたれに身を預けた。
「てっきり嫌がるかと思ったんですが」
『嫌に決まってるでしょ』
そこから始まったのはたわいもない話。好きな物は何か、趣味は、とかすごくどうでもいい話。
『……そんなの聞いてどうするの』
「気になる女性について知りたいと思うのは普通ではないですか?」
『何を言ってるんだか』
「本心ですよ」
呆れて窓の外を眺める。
『もう終わったなら……』
「貴女はいつからこの組織に?」
食い気味に被せられる言葉。こっちが本題か……。
『……15の時』
「へえ、それより前は何を?」
『さあね』
「残念。教えていただけないんですね」
元いた組織のことなんてもう誰にも話す気はない。それに、バーボンがNOCである可能性が消えたわけじゃない。私の感覚は相変わらず嫌だと告げているのだから。