第110章 黒鉄の魚影
ピンガから脱出の連絡を待ってからパシフィック・ブイに向けて魚雷を撃ち込む。その他バックドアからの操作はベルモットが行う。その操作もこちらで、と言ったが断られた……ベルモットは確実に老若認証システムを破壊したいんだろう。それは私も同じだけど。
会話に耳を傾けながらピンガにメールを送る。直美と子供が逃げた、と。送信ボタンを押してゆっくり息を吐く。
ピンガの事もどうにかしなければ。口止めもしないといけないし、下手に動かれないように手を打つ必要もある。どうしたら黙らせる事ができるだろうか。
「どうした」
考え込んでいるとジンに声をかけられる。
今、ピンガの事を伝えるのは良くないか……私が取引をしてそれでも頷かなかったらその時はジンに頼ってもいいかもしれない。
『ううん、別に』
そう言ってスマホをポケットの中にしまった。
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日が沈み、モニターに映る海は暗くなった。そろそろ動くだろうか、とスマホを取り出す。メールが1件来ていた。
『は?』
その内容に声が漏れる。
「何?」
近くにいたキールが問いかけてくる。
『はぁ……バレたらしいわ。職員を殺した事も、ユーロポールのネットワークセンターに侵入した事も』
「そんな……」
『脱出まであと数分ってところかしら……』
遠隔操作についてはベルモットがやるだろうし、それならばこちらはパシフィック・ブイを沈める準備を。
ジンの元へ行き、メールの内容を伝えた。
『そろそろ動いてもいいんじゃない?』
「ああ、そうだな……」
発射管室では魚雷を発射するための準備が着々と行われている。あとは、号令を待つだけ。そして、その時は来る。
「撃ィ!」
ジンの声と共に圧縮空気に押された魚雷が発射された。しかし、相手はICPOの海洋施設。装備もそれなりなようで、簡単にはいかない。
発令所のレーダー画面の前にいたウォッカが顔を歪めた。
「デコイに引っ張られた!」
「構わん。撃ち続けろ!」
再び魚雷が装填され、それもデコイに引っかかる。それを何回か繰り返して、やっと魚雷が逸れずまっすぐ進んだ。ベルモットが遠隔操作で防御システムを止めてくれたのだろう。
乗組員が着弾までのカウントを始める。ジンはニヤリと笑った。
「これでパシフィック・ブイは終いだ」
レーダーはそのままパシフィック・ブイに到達した。