第110章 黒鉄の魚影
無理もない。そこには……シェリーによく似た女が何人もいたのだから。
「見たかしら?このままジンにも見せてあげて」
『OK、こっちはスピーカーにするわよ』
ウォッカはタブレットを持ってジンの元へ。私もその後に続いた。
「兄貴!これを見てください!」
ジンがタブレットに目を向けると、その目が見開かれていく。
「これはどういう事だ」
『ベルモットから送られてきたのよ』
そう言ってスピーカーの状態にしたスマホをジンに向けた。
「直美が持っていたシェリーの一致画像はテストってファイル名だったから、念の為にもう一度シェリーの顔を老若認証で検索してみたの。そしたらなんとこの有様。どうやらよく似た人間を同一人物だと判断しちゃう欠陥システムみたいね」
それを聞いたジンの顔がみるみる険しくなっていく。そしてそばにあった柱を思いっきり殴りつけた。
「何が老若認証だ!とんだクソシステムじゃねぇか!」
吐き捨てるように叫んでジンは発令所を出ていった。乗組員達はジンの気迫に押されたのか、表情が固くなっている。
まあ、無理もないか。そう思いながらスピーカーをきって耳にスマホを当て、再度ベルモットと話す。
『あの方やラムには?』
「報告済みよ。そろそろ指示があるんじゃないかしら」
『そう。わかったわ。わざわざ連絡ありがと。それじゃ』
通話を終わらせてすぐ、ラムからメールが入った。万が一の時の最終手段を使え、と。つまり、パシフィック・ブイの破壊。
『ウォッカ、ジンに伝えてきて……どこかでタバコ吸ってると思うから』
「わかりやした」
ウォッカも発令所を出ていく。その瞬間、発令所内の空気が若干ではあるが緩んだ気がした。
「……あんな風にジンが声を荒らげるなんて」
『それほど期待してたんじゃないの?生きてるわけないのに……結局また亡霊に振り回されただけだわ』
壁に寄りかかってため息をついた。
ベルモットはよくこんな方法を思いついたものだ。志保の姿で防犯カメラに映り込む……それも世界中を飛び回って。
一体、ベルモットは志保にどんな借りを作ったのだろう。一時期殺そうとしていた相手を助けるために動くなんて……気になるけど変に聞かない方がいいかもしれない。
しばらくしてジンとウォッカが戻ってきた。日が沈んだ後動き出す。その前に最終確認だ。