第110章 黒鉄の魚影
カーテンが開けられるが2人の姿はない。
「おい、ウォッカ。どういう事だ……」
「これは、その……」
ジンがウォッカに詰め寄る。その様子を見ながらも心臓は大きく音を立てる。
どうかジンが気づく前に海へ……という願いは簡単に破れた。
パタパタと足音がしてそちらを見ると、乗組員の1人が走ってきた。
「発射管室で誰かがダイバー排出の操作をしています!」
『……ジン』
舌打ちを抑えてジンを見た。その目がスっと目が細められる。
1番最初に動いたのはウォッカだった。発射管室に向けて走っていく。
「クソっ!アイツらいつの間に!」
その後に私達も続く。鉄梯子を上り、発射管室に通じる通路へ。ちらりと壁を見るとエアタンクとゴーグルがなくなつていて、無事に伝わったんだと少し安心した。でも、まだ気は抜けない。
「こっちです!」
発射管室にいた乗組員が右側の発射管を指さした。
「おい!出てこい!」
ウォッカが発射管の扉を叩いた。ジンがウォッカの元へ近づいていく。
「すでに海水が注入され開きません!のこり七十秒で中の人間が海へ出ます!」
その言葉を聞いてジンはニヤリと笑った。
「それなら、2人とも殺すまでだ」
発射管近くまで歩み寄り、緑色のレバーに手をかけた。
まずい!と私が動くより先にジンの手をキールが止めた。
「ダメよ、ジン!組織は直美のシステムを必要としてる。生きて捕らえないと」
「その組織に歯向かおうとするヤツは、誰であろうと容赦しねぇ。その手をどけろ」
キールは手を離さない。ジンがキールを睨むと、キールもジンを睨み返す。
ドン!と大きな音がした。キールがジンに突き飛ばされ壁に打ち付けられた。彼女の頭にジンが銃口を向ける。
「さっきからお前の行動は尋常じゃねぇ。まさか、ネズミじゃないだろうな」
「尋常じゃないのはジン、貴方の方よ」
そう言いながらキールはわざと銃口に額を当てた。
「何?」
「あの少女がベルツリー急行で死んだシェリーなら、なぜ生きてるの?なぜ少女になっているの?そのわけを彼女の口から聞きたくないの?!」
キールが強気にまくし立てていく。私は2人に近づき、ジンの持つ銃に手をかけた。
『さすがにやりすぎよ』
「……てめぇ」
『ここでキールを殺して何のメリットがあるのよ。それに彼女の言う事にも一理あるでしょう?』