第110章 黒鉄の魚影
2人の姿が見えなくなるとピンガがニヤリと笑った。
「お前、知ってたな?あのガキの事」
『……何の話?』
「とぼけても無駄だ。これ、お前だろ?」
『っ……』
そう言って見せられたスマホの画面。そこには、プライベート用の変装をした私の姿。志保や子供達と一緒にいる様子が映っていた。
「グレースに付き合ってくれるのはコイツだったからな」
確かにそうだ。グレース……ピンガに頼まれたから変装をして買い物に付き合った事は何回かある。その事がこんなところで自分の首を絞める事になるとは思いもしなかった。もっと早く、あの子達から離れるべきだった。
「お前は知ってるんだろ?あのガキがどんな方法で生き残ったのか」
『……』
「それだけじゃねぇ。なんであんな姿になっているのかもな……ラムが知ったらどんな顔するか」
『……』
「それと、ジンの野郎にも知らせねぇとな?お前が……」
言い切る前に地面を蹴ってピンガに飛びかかった。その手にあるスマホに手を伸ばすがすんでのところで躱される。何度も手を伸ばすがそれは届かない。ピンガが後ろに大きく下がった。私も踏み込もうとしたが、突きつけられたナイフに足を止める。
「そんなにあのガキが大事かよ。組織から逃げた裏切り者だぜ?」
『貴方に理解してもらおうなんて思わない』
「こんな事隠してたってバレたらお前どうなるんだろうな」
ナイフを向けたままピンガは笑う。
「助けてやろうか?」
その言葉にピンガを思いっきり睨みつけた。
「防犯カメラの映像からこのガキ共と会ってるお前の姿消してやるよ。そうすればお前が責められる事はねぇ」
『……』
「その代わり、ジンを捨てて俺につけ」
『……笑わせるな』
突きつけられているナイフを掴んだ。サングラス越しの目が僅かに見開かれた。プツリと皮膚が切れて血が溢れてくる。
『あの子は絶対に傷つけさせない。それで私が死ぬなら本望だわ』
「……正気かよ」
『なんとでも言えば?』
「つまんねぇ女」
ピンガの眼光が緩んだのを見てナイフを掴んだ手を離す。空気に触れる切り口は鋭く痛んだ。
「チッ……さっさと出て行け。このままパシフィック・ブイに戻る。もう1人気になるヤツもいるしな」
『もう1人……?』
「江戸川コナンっていう眼鏡のガキ……知ってんだろ?」