第110章 黒鉄の魚影
なぜICPOの施設にあの少年が?パシフィック・ブイに潜入中のピンガは何か知ってるかもしれないが、そんな事で連絡すればかえって怪しまれる。
『……』
おそらく八丈島に観光か何かで来ているのだろう。今の時期ならホエールウォッチングだろうか。それならば少年探偵団の子供達や蘭ちゃん達も一緒にいるはずだ。それなら、志保が攫われた事に気づく可能性は高い。追いかけてくれれば何かしら手がかりが残るだろう。
「せいぜい上手くやりなさい」
それからしばらくして八丈島に着く。ベルモットとバーボンは早々にこの島を出るだろう。ウォッカはピンガと落ち合い、夜に志保を攫いに行く事になっている。念の為、キャンティも援護で呼んだらしい。
『合流の目処が立ったら早めに連絡して』
ウォッカにそう伝えて潜水艦内へ戻った。
「落ち着かないみたいだけど」
応接室のソファに座っていると部屋に入ってきたキールがそう声をかけてきた。
『……そうかしら』
「ええ。あの画像を見てからね」
『……少なからず期待してるのかもしれないわ。もう二度と会えないと思ってたから』
「仲良かったらしいわね」
『まあね……ところで傷の具合は?』
「動かさなければ平気」
『そう。それなら良かった』
落ちた沈黙にそっと息を吐き、キールを見た。
どうにか彼女を使って志保を逃がせないだろうか。
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夜も更けた頃。発令所で待っているとウォッカから連絡があった。5分後には合流できるという。魚雷発射管から戻ってくるというので、そちらで待機する。
どんどん大きくなる心臓の音。そして、魚雷発射管の蓋が開く。ずぶ濡れのウォッカとピンガ、ライフジャケットを被せられた志保の姿。
『その子貸して。着替えさせないと』
志保を抱えたピンガに手を伸ばす。が、その手を阻まれた。
『……何よ』
「このガキはキールに任せる」
『そう……その首どうしたの?』
ピンガの首に青い痣があった。ピンガは忌々しそうに舌打ちをする。
「そのガキの知り合いだろうな、髪の長い女にやられた」
ピンガに一撃を食らわせられる女……蘭ちゃんだろうか。彼女は無事だろうか。
「ああ、そうだ。マティーニ、お前に聞きたい事があるんだが」
ちらりと目配せをするの志保を抱えたキールとウォッカは発射管室を出ていった。