第110章 黒鉄の魚影
2段ベッドの下に女を寝かせる。若干髪が濡れていたのでタオルで水気を拭き取った。
直美・アルジェント。イタリア人と日本人のハーフだ。意識を失っているせいか写真で見たよりも幼く感じる。
「ラムが気に入るようなシステムをこんな若い女が開発したとはなぁ」
『そうね……でも、案外年齢は関係ないかもしれないわよ』
ウォッカの言葉にそう返す。思い浮かべたのは志保の姿。あの子だってまだ18歳だ。直美も同じくらいの歳だったはず。何かに秀でた人間は思っているより多いのかもしれない。
近づいて来た足音に顔を上げるとベルモットとバーボンの姿が。
『どうしたの?』
「ボディチェックよ……ウォッカ、貴方は出ていきなさい」
ウォッカが立ち去ったのを確認してベルモットはベッドに腰掛ける。そして、直美の服の上をぽんぽんと軽く叩きながら調べていく。
「ん?」
首を傾げたベルモットが直美の首にかかっているネックレスに手を伸ばした。
「あら、可愛い」
ネックレスについたペンダントトップを調べるとパチンと音を立てて底が外れた。中から覗いたのはUSB端子だ。
「へぇ……」
ベルモットはニヤリと笑った。
万が一の事がないように直美の手足を拘束する。たとえ抜け出しても逃げ場なんてどこにもないのだが。
直美を残して向かったのは応接室。ウォッカとキールも既にそこにいた。そこにあるパソコンの前にベルモットが座った。パソコンを起動し、先程手に入れたUSB端子を差し込む。部屋にいる全員が立ち上がってパソコンのモニターに目を向ける。
「画像ファイルみたいね」
そう言ってベルモットがファイルを開く。
『っ?!』
その瞬間、気を失いそうになった。どうにか耐えたが全員の目はその画像に釘付けになる。
「これは……」
「シェリー!」
開かれたファイルには宮野志保、そして灰原哀の画像が並んでいる。
「隣のガキ、似てるな」
「子供時代のシェリーかしら?」
「いや、最新の画像だ。奥の野郎の手元を見ろ。最近の機種だぜ」
「……なるほどね」
近くで交わされる会話をどうにか聞き取りながら必死に考える。でも、突然の事で思考はなかなかまとまらない。
「……つまりどういう事?」
「まさか、このガキがシェリー?!」
キールの問いにウォッカが叫んだ。
最悪、だ。