第110章 黒鉄の魚影
ICPOに潜入しているピンガがわざわざラムに知らせる程のシステムだ。相当有用なものなのだろう、それを改ざんして過去の防犯カメラの記録から組織の人間の姿を消す……それがボスの命令だ。
支度を終えた2人が魚雷発射管の蓋を開ける。
「間違ってもレバーは引かないでくださいね」
『そんな事したら貴方達消し飛ぶわ。さすがにやらないわよ。それじゃ戻ってきたら連絡入れて』
2人が入り込んだところで黄色のボタンを押す。数分後には2人とも海に出る。
ここからパシフィック・ブイに向かい、ピンガの協力で中に忍び込む。目的の女を拉致して離脱……1時間以内に戻ってくるだろう。
この場所で無駄に時間を潰すのももったいないし応接室へ行くことにした。
薄暗い応接室でスマホを出す。ピンガに2人が向かった事を連絡するとすぐに返信が来た。どうやらパシフィック・ブイの局長が警視庁の人間を呼んだらしい。先日のユーロポールの件が原因だろう。必要以上の事はしないように、と釘を刺しスマホをしまう。
ソファに深くもたれ掛かると少し瞼が重くなった。数分眠ってもいいだろうか……。
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目を開けると向かいのソファにキールが座っていた。
「ずいぶんお疲れみたいね」
『まあね……』
思ったより眠ってしまったようだ。スマホにはパシフィック・ブイを出たとの連絡が入っている。迎える準備をしないと。
発射管室で待っていると到着の連絡が入る。魚雷発射管に入れるように操作をして海水が完全に排出されるのを待つ。それから蓋を開けた。
「もうここからの出入りは二度とごめんよ」
出てきたベルモットがウェットスーツを脱ぎながら言う。
『そんなに入り心地悪いの?』
「それもあるけど、ヒヤヒヤするのよ。誰かがそのレバーを引くんじゃないかって。貴女も入ってみればわかるわ」
『……機会があればね』
そんな日は来て欲しくないけど。
バーボンと共に出てきた女が例のシステムの開発者だろう。
「やっと戻ってきたか」
そう言って顔を覗かせたのはウォッカだ。
『ちょうどよかった。ウォッカ、その子運ぶわよ』
「それなら僕が……」
『そんなびしょ濡れで艦内歩かせるわけないでしょ』
バーボンに向けてタオルを投げる。
ウォッカが面倒くさそうに女を抱えたのを確認して、閉じ込める部屋へ向かった。