第110章 黒鉄の魚影
息が苦しくなってきたところでやっと唇が離れた。荒くなった息を整えている間に静かに車が動き出す。しばらくして着いたのはジンの泊まっているホテル。ジンを見ると早くおりろと言わんばかりの視線を向けられた。たぶん抱かれるんだろうな……なんて思いながら車のドアを開けた。
部屋について早々、またキスをされる。服が脱がされていくのを感じて慌ててジンの手を掴んだ。
『シャワー浴びてから……』
「……何もしてこなかったのか」
『キールの手当て終わってすぐ出てきたから……明日帰ってから浴びればいいかなって。ジンに会うと思ってなかったし……』
「……」
『だから、シたいなら……』
「……チッ」
解放された事にほっとしながらシャワールームへ向かう。ジンの様子にちょっと嫌な予感を感じながら服を脱いだ。
シャワーから出るお湯で体を流していると、シャワールームのドアが開く。するりと入り込んできたジンにため息をつきそうになる。
顎をすくわれて触れるだけのキスをされた。いつもに比べて余裕がないというか……さっさとシたい、とでも言うような感じ。
『……今日どうしたの?』
「あ?」
『なんか余裕ないなぁって』
「馬鹿の尻拭いのせいでな」
『そう……んっ』
お尻から腰のラインをジンの手が撫で上げていく。反対の手は背筋をなぞる。
「それにしばらくは時間もなさそうだしな」
『……そうだね』
数日後、私とキールは日本に戻る。その後、ウォッカ達と合流して任務のため潜水艦に乗り込む。数日は潜水艦に缶詰めになる予定だし、任務の進み具合によっては予定以上に時間がかかるかもしれない。
「今日は寝れると思うな」
そう言って笑ったジンにあっという間に飲み込まれていった。
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八丈島近海。乗り込んだ潜水艦はICPOの施設、パシフィック・ブイに向けて進んでいく。
『浮かない顔ね』
「あら、だったら代わってくれるの?」
『それは勘弁』
そう言ってドライスーツを着るベルモットを手伝う。既に支度を終えたバーボンをちらりと見て、すぐに視線を外した。この様子ならたぶん余計な事はしないだろう。
バーボンとベルモットはこれからパシフィック・ブイに向かう。そこで、とあるシステムの開発者の女を攫ってくる。
老若認証。それが、今回組織が奪おうとしているシステムの名前だ。