第109章 カイピリーニャは甘すぎる #3 ※
それからしばらくして。息抜きにバーに来ていた。
明美へのメールの返信を済ませたタイミングでスマホが震えた。画面を見るとピンガの番号が。バーのマスターに断りを入れて通話を始める。潜入が決まり、それに向けて本格的に動き出したらしい。潜入先がICPOなのは少し驚いたけど。
『わざわざ連絡してくれたの?』
「あ?教えろって言ったのお前だろ」
『まぁ、そうだけど……』
「……いろいろ手伝ってもらったしな」
『でも、選ばれたのはピンガの実力のおかげでしょ?』
「まあな」
見た目に似合わず結構律儀なところがあるんだ。意外。
「で、お前は?撃たれたって聞いたけど」
知られてるとは思わず、思考が一瞬止まった。もうほとんど痛みのない、でも残ってしまった傷跡の辺りをそっと撫でた。
『あー……もう動けるし大したことないよ』
「本当か?」
『……うん。本当に大丈夫』
「詳しい事は聞かねぇが……あんまり無理すんな」
『うん、ありがと』
そう言いながら、ピンガと直接対面していなくてよかったと胸を撫で下ろした。ジンに避けられていて会えていないのはかなり堪えている。ピンガに今の様子を見られたら、その優しさで取り込まれてしまいそう。
「しばらく先になるだろうけど、どっかで時間取れたらでいいんだが、その、なんだ……」
『なに?』
「あー、グレースの買い物に付き合ってくれねぇか?」
『ん、いいよ』
「約束だからな」
『ふふっ、わかったよ』
ちょっと必死さを感じる言い方に笑ってしまった。私が笑ったせいか、電話越しに舌打ちの音が聞こえる。
「そろそろ行かねぇと……じゃあな」
『うん。またね』
「……もし、気が変わったら連絡しろよ」
『……えっ?』
「じゃあな」
そう言って切れた電話。少し心臓の音が大きくなった。気が変わったらって……きっと前に言ってたのと同じ意味だ。もしかして、ジンとの事知ってるのだろうか。まずいな、できるだけ早くどうにかしないと……でも、どうしたらいいかわからない。
「お決まりですか?」
顔を上げたら視線が合わさってしまって声を掛けてきたマスター。全く考えてなくて、どうしようかと悩む。コードネームのせいか次々浮かぶ酒の名前……今だけはその優しさに身を任せてもいいだろうか。
『……カイピリーニャを』
「かしこまりました」