第109章 カイピリーニャは甘すぎる #3 ※
少しして目の前にグラスが置かれた。それを手に取ると、ふわりとライムの香りがする。口をつけてゆっくり喉へ流し込む。
ピンガはほんのり甘さのある酒だ。カイピリーニャはピンガに砂糖とライムを加えて作られる。常に香っていた香水、優しさという名の甘さ、そしてピンガというコードネーム。彼だけでカイピリーニャは完成するようだ。
『……少し甘すぎるかしらね』
このカクテルも、ピンガの存在も。常にそばにあったら飽きてしまう。それなら時々味わうくらいがちょうどいい。
「へぇ、カイピリーニャか。好きなのか?」
そう言いながら隣に座った男をちらりと見る。
『貴方も息抜き?……名前なんだったかしら」
「あはは、ひっでぇ!緋色でも唯でも好きに呼んでくれ。帰りの足があった方がいいかと思って」
『……点数稼ぎ?』
「否定はしない」
ずっとつけてきたのかとか何も思わないわけじゃないけど、そう言うなら使わせてもらおう。この男は断っても引かなさそうだし。
『……貴方も』
「ん?何?」
『いいえ、なんでも』
そう言って席を立った。
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……久しぶりに懐かしい夢を見ていた気がする。ぼんやりする目を擦って窓の外を見た。
ドイツのフランクフルトに向かう飛行機の中。作戦の決行日まで数日余裕があったので私だけ一足先に向かっている。後から来るのは、ジン、キール、コルン、そしてピンガ。
作戦に必要なのはピンガだけ。あとはサポートに回る。それを知った時のジンの表情といったら……正直、ずいぶん手厚い気がするが、ラムの命令だ。背くわけにはいかない。
ピンガは長年の潜入の成果か、ICPOでエンジニアとしてかなりの地位を得た。そして、最近配属されたのがパシフィック・ブイというICPOの施設。そこで4人しかいないメインエンジニアの1人になった。
どうやらそこで、有用なシステムを開発したエンジニアがいたらしい。組織の人間としてコンタクトを取ろうとしたが断られたと。それならば、奪うまで。そのシステムを改良し、過去の監視カメラの映像から組織の人間の姿を消す。それがあの方の命令だ。
しかし、妙な胸騒ぎがする。数日後の作戦か、それともその先にある何かか。この手の勘はよく当たるから困る。
不安な気持ちのまま目を閉じるといなくなった人達の顔が思い浮かんだ。
また……誰か死ぬんだろうか。