第108章 カイピリーニャは甘すぎる #2 ※
体も心も重い気がするが、いつまでも車内にいる訳にもいかない。両頬を軽くぱちんと叩いて車をおりた。
任務の時間まで何しようか……そんな事を考えながら自室までの道を歩いていく。
「おや、マティーニじゃないか」
『あら、キャンティ。今日は1人?』
「ああ。コルンもカルバドスも別件でねぇ……」
やれやれというようにため息をついたキャンティ。そこから近況の話をしていると、不意にキャンティが眉を顰めた。
『どうしたの?』
「この匂いってライムかなんかだろ?アンタ、そんな香水使ってたかい?」
『香水……』
間違いなくピンガのものだ。面倒だけどシャワー浴びよう。このままじゃ任務には行けない。
『ちょっといろいろあったのよ……』
「ふーん。まぁ、深くは聞かないけどさ。気をつけなよ、ジンが面倒くさそうだから」
『うん……ありがと……』
ぎこちない笑みを浮かべて、キャンティとはそこで別れた。
急げ急げ。できるだけ早く部屋に戻らなきゃ。でも、こういう時に限って顔見知りと会うし呼び止められる事が多い。話長いし。さっさと話を切り上げようとして、目の前の男の視線が私の後ろに向けられる。そして、顔色が変わった。
「よぉ」
振り返るより先に肩に腕が回される。その声とふわりと香った匂いに大きくため息をついた。ピンガだ。用は済んだのだろうか。
話していた男は青白い顔のままさっさと話を切り上げて怯えたように去っていくし。確かにコーンロウの男って変な威圧感あるよね。なんて若干同情した。
『なんなのよ』
「あ?話終わらせたがってたろ?」
『それはそうだけど……っていうか、この手どけてよ』
そう言って腕を振りほどいて振り返る。先程までしていなかったサングラスを掛けているせいで、余計に威圧感が増してる。
「何をそんなに急いでんだ」
『……貴方のせいだからね』
こんなに濃く匂いが残ってなければここまで焦る事もなかったんだから。そんな気持ちを込めながらピンガを睨んだ。鼻で笑って流されたけど。それでも話を終えられて助かったのも事実。
『まぁ、話長くて困ってたのも本当だから。ありがと。それじゃ』
「つれねぇなぁ……っ?!」
向けられた殺気にピンガだけでなく、私も身を固くする。ゆっくり近づいてくる足音にどんどん背筋が冷たくなっていくのを感じた。