第108章 カイピリーニャは甘すぎる #2 ※
「もう少し休んでいったらどうだ?それとも何か予定でもあるのか?」
『……なんでよ』
夜任務があるけど、それより前は特に何の予定もない。まだ朝早い時間だし、正直ちょっと眠いし、もう少しここにいても時間的な問題はないのだけど。
これ以上ここにいたら絆されてしまいそうだ。関わり始めてそう長くはないし単純だとは思うけど、守りたい人の1人になったのは間違いないし……だからこそ、失うかもしれない可能性が怖い。いつか、私の知らないところで死んだら……そう考えてしまうくらいに、ピンガの存在は私の中にちゃんと位置づいてしまっている。
「ったく……仕方ねぇな」
『うわっ』
急に横抱きにされて咄嗟にピンガの首に腕を回した。行き着いた先はベッドの上。
『ちょっと!』
「何もしねぇよ。少し寝ろ」
『でも』
「適当に起こしてやる。ほら、目瞑れ」
眠気がある状態でベッドに寝転べばすぐに瞼が重くなってくる。横に寝転んだピンガの表情は妙に優しそうだった。
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『誰に用があるの?』
「別に。大した事じゃねぇ」
車を運転しながら問いかけると、先程までの雰囲気は嘘のような返事が返ってきた。
何か用事があるらしく、私の帰るついでだからとピンガをアジトまで連れていく。駐車場に入り車を停めた。そこでふと思い出してバッグの中を漁る。
『ねぇ、これあげる』
「……あ?」
ピンガに差し出したのは、淡いピンクのリップ。
『グレースに似合うと思って。良かったら使って』
「……ああ」
ピンガはリップを受け取ってポケットの中へ入れた。
『それじゃあ、ここまでね。また何かあったら連絡して』
「……おい」
『なに……んっ』
ピンガの方を向くとそっと引き寄せられて軽く唇が重なった。慌てて身を引くとピンガはニヤリと笑った。
「いい返事待ってるぜ」
そう言ってピンガは車をおりていった。
『本当に……なんなのよ……』
シートに深くもたれかかってため息をついた。
最初は冗談だとか、遊びの延長だと思ってたけど……気づいてしまった。ピンガは本気らしい。頬が熱くなってきた。
だって、あんな優しくて甘ったるい感情を向けられるのは初めてだから。そして、私自身がそれに良さを見出してしまっているから。
ピンガもピンガだが、私も大概だな……そう思ってまた大きくため息をついた。