第108章 カイピリーニャは甘すぎる #2 ※
「そんなんじゃ利用されて殺されるのがオチだろ」
『それでもいいわよ。ここに来る前はそうなる予定だったんだから』
「は?それってどういう……」
『この話は終わりね。あ、悪いんだけどファスナー上げてくれない?』
あまり触れたくない過去の話になりそうになったから無理矢理話を終わらせる。腕を背にまわしてドレスのファスナーを上げようとしたのだが、鈍い痛みが走ったので自分で上げるのは諦めてピンガに頼む事にした。ピンガに背を向けて邪魔にならないように髪を手で持ち上げる。
「はぁ……」
ため息をつきながらも了承してくれたようで、ファスナーが上げられる。背筋をなぞるような動きとピンガの指が肌に擦れる感覚にぴくりと肩が震えた。
『っ……』
「……なんだよ」
『……手、冷たくてびっくりしただけ』
それっぽい理由を言えば納得したのかピンガが離れていく。鏡で姿を確認して……よし、問題ない。
『それじゃあ出るけど、人目のあるところは言動に気をつけて』
「あー……OK。行きましょう」
ガラリと雰囲気が変わったピンガ。これだけ順応力があるし、ベルモットがしっかり教えればもっとクオリティの高い変装ができるだろうに。ピンガは人と馴れ合うのはあまり好きじゃないんだろうな。
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私の車で会場となるホテルに向かいながら最終の打ち合わせをする。今日は多くの企業の重役が集まるものだ。世間一般に多く知られる企業はもちろん、後ろ暗い事をしている企業もある。私達は、表向きは枡山……ピスコが会長をしている自動車メーカーの関係者という事になっている。
『私は知り合いに挨拶に回るから、貴方は会場内の警戒とあとは引き込めそうな人がいたらリストアップして。その人達は素性を洗って使えそうなら接触するから』
「……ええ。わかったわ」
『今くらい普通にしてていいのに』
「気を抜くとボロが出そうだから」
『貴方ならよっぽどの事がなければ大丈夫よ。あ、でも困った事があったらすぐに教えて』
「……問題ないわ」
『そう言っても慣れない女の姿だし、派手に動く事も難しいのよ』
「……」
『……さっきも話したけど助けられるなら助けたいし、困ってるなら力になりたいの。だから、ね?』
「……」
微妙な反応だなぁ……素直に連絡してくれればいいんだけど。