第107章 カイピリーニャは甘すぎる #1
『……何の真似?』
そう問いながらなんとか抜け出せないかと体を捩ってみるが……これは無理だ。
「あ?見りゃわかるだろ」
私の抵抗を感じたのか、ピンガがニヤリと笑う。
「用も済んだし殺そうかと思ってな」
『……本当に?』
「どういう意味だ」
『てっきりジンに何かしたいのかと』
そう言うと押さえつける力が増した。圧迫される痛みを感じながらも口を開く。
『そこまでジンにこだわる理由は何?』
「……関係ねぇだろ」
ピンガの纏う殺気が鋭くなっていく。
『いいじゃない。色々教えてあげたでしょ』
「……気に入らねぇんだよ」
低く呟いたピンガ。続きを促すようにゆっくりと瞬きをする。
そこから語られたのは、それぞれの立場の話。要するにジンが表、ピンガが裏。そんな扱いが気に食わないようだ。それぞれの能力からして適材適所だと思うのだけど、ピンガはそうではないらしい。
『貴方とジンはそもそも長所が違う。同じフィールドに立とうとする事自体間違ってると思うわ』
「はっ、お前みたいなヤツは理解できねぇだろうな……だが、いつかアイツを蹴落としてやる」
そう言ったピンガの目を見つめて、私は力を抜いた。
「……抵抗しねぇのか」
『だって殺す気ないでしょう?』
「余裕そうだな」
皮膚にナイフが当たる。ほんの少し力を込められたら切っ先は皮膚を割いてくるだろうが……そんな未来はきっとこない。
『貴方、感情的になりやすい部分はあるかもしれないけど馬鹿じゃないもの。根は真面目みたいだし、自分の置かれた立場をちゃんと理解してる。私を殺したらどんなデメリットがあるか、それも予測できてるはず』
「……」
『それに、貴方プライド高いでしょう?もし仮に私を殺した事でジンに何か影響があったとしても、満足しないんじゃない?どれだけ時間をかけても自らの力で蹴落とす事にこだわりそう』
「……」
『まだ続ける?』
「チッ……つまんねぇ女」
ピンガに押さえつけられていた四肢が自由になった。ゆっくり起き上がってピンガを見る。
「前にも言ったが、他のヤツらに余計な事言うんじゃねぇぞ」
『……諦める気はないのね』
「当たり前だろ。で、言わねぇよな?」
『……わかったわ。貴方がジンを蹴落としたがってる。その事を黙ってればいいんでしょ』
「……ああ」