第107章 カイピリーニャは甘すぎる #1
これは無理だろうな。できるならやめてほしいけど、私が言っても止まらなそうだ。見るからに一方的なものだろうしジンは気にしないんだろうけど……それを言ったら逆上しそうで怖い。
『……それじゃあ行くわね。潜入決まったら教えて』
「は?なんでだよ」
『いいじゃない。ここまで教えてあげたんだし。しばらく会うこともなさそうだし』
「……はぁ、仕方ねぇな」
不満げな顔を隠すこともしないピンガ。やっぱりちょっと子供っぽいかも。そう思いながら部屋を後にした。
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「どこで、誰と何をしていた」
殺気と嫌悪感をまとうジンに背筋がひやりとする。
ピンガに会った後、いつものように呼び出されて行った先。部屋に入るなりジンに壁際まで追い詰められた。
『……ジン、どうしたの?』
「この匂い。男物の香水だな?」
そう言われて自身の匂いを嗅ぐ。私の香水の香りに混じって、若干別の顔がした。柑橘系の、少し苦味のある香り。ライムのようなこれは……間違いない、ピンガの部屋で嗅いだものだ。
『さっきまでピンガのところにいたの。変装の最終確認で……たぶんその時に……』
「それだけでこんなに匂いが強く残ると?」
『っ……』
流石に押し倒されてナイフを突きつけられた、とは言えない。そう思って目を逸らしたが、顎を掴まれて無理矢理視線を合わせられた。
「まあいい。全て上書きすればな」
そう言ったジンに唇を塞がれた。すぐに舌が割り込んできて歯列をなぞっていく。舌を絡めて吸われて、どんどん力が抜けていく。やっと唇が離れて、乱れた呼吸を正すように深く息を吸った。
「その顔も見せたか?」
ジンの問いに小さく首を振る。それでもジンの気は収まっていないようで、腕を掴まれベッドに投げられる。
「一応聞いておくが……もう会う予定はないんだな?」
『よっぽどの事がなければ……変装教えろってだけだったし』
「そうか」
そう言ったジンにまた深く唇を重ねられた。これは……意識持つだろうか。私を包む香りがジンの香水とタバコの匂いに変わる。この匂い好きだな。ぼんやりと考えながら快感を受け入れていく。荒いけど少し優しさも含んだ快楽に意識が落ちるのは……。
それから数日後。ラムからの命令でしばらく会わないだろうと思っていたピンガと一緒にパーティに潜入する事になるとは。この時は考える余裕もなかった。