第107章 カイピリーニャは甘すぎる #1
『……どういう意味?』
「あの野郎が特定の女を作ると思えなくてな」
嘲笑混じりのピンガの言葉に苛立つと同時に、ジンと私の関係を的確に示す言葉が見つからなくて虚しさを覚えた。
「キュラソーに言われた。下手にお前に手を出すとジンの怒りを買うってな」
『……都合がいいだけよ。代わりなんていくらでもいるだろうから』
「へぇ?」
こちらに近づいてくるピンガにあっという間に壁際まで追い詰められる。意図が読めなくてピンガを見ると、顎を掴みあげられた。
「今ここでお前を犯したら……ジンがそれを知ったらどんな顔するんだろうな」
隙を見て抜け出そうとしたが、するりと腰に手を回されて更に距離が縮まる。にしてもジンの名前が出てからピンガの雰囲気がガラリと変わった。一緒に任務をやった事があってそこで何か起きたのか?でも、ピンガの名前を出した時の反応からして印象が薄いみたいだし……だとしたら何かあったのはピンガがまだコードネームをもらう前?
『貴方、ジンと何かあったの?ずいぶん嫌っているように見えるけど』
「……別に。何もねぇ」
『……そうなの?コードネームもらう前とかは?』
「何もねぇって言ってんだろ」
『そう……でもそうよね。何か関わりがあったらジンも貴方の事覚えてるはずだもの』
「は?」
ピンガのこめかみに青筋が浮いた。そして顎を掴む手に力が入った。ピリッとした痛みにピンガの手を掴む。
『ちょっと、痛いんだけど……っ』
「あー……あの野郎本当に気に入らねぇ」
俯いたピンガがボソリと呟くようにして言った。でもすぐに顔を上げる。ニヤリと笑ってピンガの唇が私の唇に重なった。
『ん、ぅ……』
腰に回された手にも力が入れられる。どうにか離れようと両手でピンガの胸元を押すが全く動かない。それどころか唇を割って口内に舌が入り込んでくる。開かれたままのピンガの目を睨みつけるが、更にキスが激しくなるばかり。
ぎゅっと目を瞑り両手を強く握る。できる限り力を込めるようにして勢いよく口を閉じた。少し遅れて微かに血の味を感じると、ピンガが離れた。
「いってぇな……何すんだよ」
『それは、こっちのセリフよ』
じわりと唇に滲んた血を拭うピンガ。できる事なら殴るなり蹴るなりしてやりたいけど、それ以上にこの感覚を上書きして欲しかった。他の誰でもない、ジンに。