第107章 カイピリーニャは甘すぎる #1
「……」
渋々といった様子で鏡を覗き込んだピンガの動きが止まる。
『どう?悪くないと思うんだけど』
「……」
『ねぇ』
「……すげぇ複雑」
『って事は問題なさそうね』
「……ああ」
なんとも言えない表情をしたピンガ。思いの外似合ってたというところだろう。
『嫌じゃないならこういう簡単な変装にしたら?メイク道具もほとんど使わないし』
「……そうだな」
使ったのは化粧下地と淡いピンクのリップとビューラー。本当に素がいい。
『あ、貴方眉を剃る気ある?ないなら前髪のあるウィッグで隠せた方がいいわね。ちょっと特徴あるし』
「そこまで気にするものなのか」
『そりゃね。マスクで全部変えるなら必要ないけど……あと、その髪。地毛の方。どうしようかしら』
「どういう意味だよ」
『うまくまとめないとウィッグを被った時に変になるの。今、私がやったみたいに綺麗にまとめられる?まあ、練習すればすぐにできるだろうけど。それが嫌ならいっその事短くするとか』
「切るわけねぇだろ」
『じゃあまとめ方も教えなきゃね』
そう言って準備をしようとすると着信音が響いた。私の方か……と思ってスマホを取り出すと、表示されていたのはジンの番号。ピンガに断りを入れて通話ボタンを押す。
『もしもし。どうしたの?』
「○○ホテルの***号室」
何かと思えばセックスの誘い。嫌ではない、むしろ嬉しいけど今日は困る。
『は?今日?ちょっと待ってよ』
「なんだ?今日は何の予定もねぇだろ」
『そうだけど、今ちょっと取り込み中で』
「あ?」
『キュラソーに頼まれてピンガに変装教えてるの。だから……』
「……ピンガ?」
『冗談でしょ。ほら、IT関係に秀でてる。ラムのお気に入り』
「……ああ、いたな」
『だから今日はごめん。また別の日に……』
「……明日の任務終わり。逃げるなよ」
私の返事を待たずに切れた電話。任務後か……いや、その前に任務に集中できるだろうか。なんて考えていると、ピリッと空気が張った。ピンガの方を見ると、ウィッグを脱ぎ捨ててこちらを冷えた目で見ていた。
『何?』
「誰だ。電話の相手」
『ジンだけど』
そう答えるとピンガは苛立ったようにその唇のリップを乱暴に拭った。そして、私を睨みつける。
「……お前、ジンの何だ?」