第107章 カイピリーニャは甘すぎる #1
アイリッシュとキュラソーに諭すように言われて、差し出した手をそっと下ろした。
「おい」
無駄話をするなとでも言うような、機嫌の悪さを隠そうともしない声がピンガから発せられる。その声にキュラソーの眉がピクリと上がった。
「……ええ。それじゃあ、私達はこれで」
『うん。また何かあったら連絡して』
そう言って去っていく2人の背中を見送る。方向からして私達が来た所へ向かうようだ。ふん、キュラソーにやられてしまえ。なんて思いながらピンガの背に向けて小さく舌を出した。
「……本当にガキだな」
『握手の1つもできないやつよりマシでしょ』
「そういやアイツ、お前と同い年じゃなかったか?どっちもどっちってことだな」
『……』
そう言ってニヤリと笑うアイリッシュの腕を強めに叩いた。
アイリッシュを見送ってから自室へ戻る。まだ任務の時間までしばらくある。しばらく休んでから余裕を持って出られるだろう。
冷蔵庫からペットボトルを取り出し、1口水を飲む。そっと息を吐いて、先程会ったピンガの姿を思い浮かべる。
髪色といいピアスの付け方といい……周囲に比べて若いのもあるのか、ドラマなんかで見るチンピラっぽさがある。先程の態度からして、私に対してあまりいい印象を持っていない気もするし。関わるとしても必要最低限だろう。
なんて考えていたのが良くなかったのかもしれない。
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『変装?私が教えるの?』
「ごめんなさい。できるだけ早めに身につけさせなきゃいけないみたいで。でも私これから海外なの」
『そうなんだ……わかった。時間と場所連絡するように伝えてくれる?』
「ええ、わかったわ。それじゃあよろしく」
切れた電話に思わずため息をつく。
キュラソーから連絡かと思えば、ピンガに変装のやり方を教えるようの頼まれた。ベルモットの方が適任だろうに……彼女も別件だろうか。
しばらくしてメールが届いた。場所と数時間後の時刻の指定に大きく舌打ちをした。急ぎとは言われたが、まさか今日を指定してくるなんて思わなかった。確かにこの後予定はないが、それでも人使いが荒いんじゃないか?しかも指定された場所はここから少し距離のあるホテル。地味に嫌がらせでもされてるようだ。
それでもやると言ってしまったからには仕方ない。渋々ながら変装道具の準備を始めた。