第107章 カイピリーニャは甘すぎる #1
先程まで体術の相手をしていてくれたアイリッシュとアジト内の通路を歩いていく。少しずつ上達しているとは思うけど、アイリッシュの反応を見る限りまだ遠く及ばないんだろう。
『なんかもっとわかりやすく説明してよ』
「あ?わかりやすく言ってるだろ。理解できねぇお前が悪い」
『またそうやって子供扱い?!』
「実際子供だろ」
ムカッとしてアイリッシュの腕をパシパシと叩くが、それをアイリッシュは鼻で笑う。
アイリッシュはこの後海外に飛ぶらしい。スケジュールがギチギチなのにこうして時間を作ってくれるのは本当にありがたい……が子供扱いしてくるのはちょっとやめてほしい。私も夜には出ないといけないけどアジトの出口まで見送りはするつもりだ。
『次……いつ来るかはわからないよね』
「そうだな。気が向いたら連絡してやる」
『ん。ありがと』
そんな会話をしながら通路を曲がる。と、向かい側からキュラソーが歩いてきた。
『キュラソー!久しぶり』
「久しぶりね、マティーニ。元気そうでなによりだわ」
そう言ってキュラソーはふわりと笑う。それに私も笑顔を返してからキュラソーの後ろに立つ人物に目を向けた。
金髪から茶髪、グラデーションが綺麗だ。その肩より少し長い髪をハーフアップにしている。私のすぐ隣にアイリッシュがいるせいか、それに比べて少し華奢に見える体格。左耳にリングピアスが2つ。サングラスの向こうから覗く目は品定めするようにこちらを見ている。
『……彼は?』
「ピンガよ。その様子だと初対面みたいね」
ピンガ……少し前にコードネームをもらったという男か。IT関係の知識に長けていて、ハッキングはもちろん組織内で使っているプログラムのいくつかにも関わっているんだとか。そして、ラムに気に入られているという話も聞く。
『ピンガね。私はマティーニ……って知ってるかもしれないけど。よろしく』
そう言って手を差し出す。が、それが取られる気配は全くない。それどころか視線を逸らされた。まるで関わる気はありません、と言わんばかりの態度だ。その様子に思わずムッとしてしまう。
ポン、と肩に手が置かれてそちらを見ると、アイリッシュが呆れたような顔をしている。
『何?』
「お前だけだぞ。誰彼構わず仲良くしようとするのは」
「それがマティーニの良さでもあるんだけどね」