第106章 3年前の11月6日
ちらちらと視線を感じる。ふと、ショーウィンドウに映る姿を見て納得した。髪はボサボサ。肌も服も土埃で薄汚れている。これは視線を集めて当たり前だ。
服は軽く叩いて、ハンカチで拭けるところは綺麗にする。近くにあったコンビニに入って手を洗えばある程度は問題ないだろう。にしても、脇腹の痛みが酷くなっている気がする。
スマホが震え始めた。画面を確認して思わず笑みが漏れる。
『覚えててくれたんだ』
「どこにいる」
『渋谷の……』
場所を伝えて電話を切った。
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「……何があった」
助手席のジンから不機嫌な声があがった。
『ん……人助けしようとしたら、攻撃された?』
「ソイツは?」
『肩外してやったら逃げてった』
車が少し揺れると脇腹に響く。
「面倒事に首突っ込んだんじゃねぇだろうな?」
『たぶん大丈夫……顔変えてるし』
先程見かけた外国人の女を思い出す。そういえば、聞き取れなかったけど何かブツブツと呟いてたな。なんだったんだろう。
案の定、あばら骨にヒビが入っていた。腕や脚も痣だらけで、ジンの機嫌が更に悪くなったのは言うまでもないだろう。翌日からしばらくの間はハッキングや事務処理を言い渡された。
『そういえば……』
あの時聞こえた爆発音はなんだったのだろうか。そう思いながら調べてみた。
『うーん……』
確かにガス漏れ騒ぎはあったらしい。でも、そのビルが爆発したというわけではなさそうだ。じゃあ、一体何があったのか。
しかし、その件からはすぐに意識が逸れてしまった。とある遊園地の観覧車に爆弾が仕掛けられ、それによって警察官一名が殉職したというニュースでいっぱいになってしまったから。
裏社会に身を置いている人間が言うのはおかしな話かもしれないけど、この町は普通ではない。
言われた任務のために開いていたパソコンを一度閉じる。バーボンに連絡しなければならないから。バーボンの番号をタップして電話をかけたのだが。
「もしもし」
聞こえてきたのはスコッチの声だった。
『あら、番号間違えたかしら』
「バーボンにかけたなら合ってるけど……今、ちょっと手が離せないらしくて」
『明日の任務の最終確認のつもりだったの。メール送っておくわ』
「そうか。悪いな」
しかし翌日、待ち合わせ場所に現れたのはスコッチで小一時間問い詰める事になる。